株式のクロス取引(損出し)で節税する方法とは? 法的に問題はないのか
Aventure編集部
株取引において年内に利益が確定し、含み損を抱えている人はクロス取引(損出し)をすることによって節税効果が望めるかもしれません。損出しは塩漬けになった株式を処分するのではなく、売却してすぐに同一銘柄を買い戻して一時的に損失を出し、利益と相殺して節税を行うものです。非常に簡単な方法で節税効果が望める一方で、注意すべきポイントがいくつかあります。また、クロス取引は仮装売買に該当するとの声も聞こえてきます。法的に問題はないのでしょうか?
クロス取引とはどのようなものか?
クロス取引は様々な目的を持っています。手法は同一銘柄の買いと売り注文を同時に行うことです。ここでは、節税目的の損出しクロスについて説明します。損出しとは、損切りとクロス取引を組み合わせたものです。これによって節税できるのは2つの条件を満たす必要があります。
①キャピタルゲイン・インカムゲインのどちらか、または両方で利益を出している
②保有銘柄において含み損が発生している
含み損が発生している銘柄の損失を確定させて利益を相殺し、税金を低くします。損失を確定して税金を低く抑えるためのものなので、含み損を抱えていた銘柄はすぐに買い戻します。
損出しのやり方
1,000円だった銘柄を1,000株購入し、後に500円に下がったとします。この場合、含み損を50万円抱えていることになります。損出しはこの銘柄を500円で売却して50万円の損失を確定します。その後、500円で同一銘柄を1,000株買い戻します。実際に損失を出したのか、含み損なのかが重要です。
節税効果のシミュレーション
損出しをすることで、どれだけの節税効果があるかシミュレーションをします。 2022年に銘柄Aで50万円のキャピタルゲイン、銘柄Bで8万円のインカムゲインを得た人が、銘柄Cで年末に30万円の含み損を抱えていたとします。
【損出しをしないパターン】
銘柄Aの利益:500,000円
銘柄Bの利益:80,000円
合計:580,000円
税率:20.315%
税額:117,827円
【損出しをしたパターン】
銘柄Aの利益:500,000円
銘柄Bの利益:80,000円
銘柄Cの損失:300,000円
合計:280,000円
税率:20.315%
税額:56,882円
損出しを行うことにより、60,945円の節税効果が生まれました。
3年繰り越せる仕組み
株式投資の損失額は3年繰越すことができます。
2022年に銘柄Aで50万円のキャピタルゲイン、銘柄Bで8万円のインカムゲインを得た人が、銘柄Cで年末に80万円の含み損を抱えていたとします。2023年に銘柄Dで20万円の利益を出したとします。上と同じく、2022年に損出しをした場合としなかった場合を見てみましょう。
【損出しをしないパターン】
▼2022年の税金
銘柄Aの利益:500,000円
銘柄Bの利益:80,000円
合計:580,000円
税率:20.315%
税額:117,827円
▼2023年の税金
銘柄Dの利益:200,000円
合計:200,000円
税率:20.315%
税額:40,630円
2022年と2023年の税金の合計額:158,457円
【損出しをしたパターン】
▼2022年の税金
銘柄Aの利益:500,000円
銘柄Bの利益:80,000円
銘柄Cの損失:800,000円
合計:0円(-220,000円)
税率:20.315%
税額:0円
▼2023年の税金
銘柄Dの利益:200,000円
銘柄Cの繰越損失:220,000円
合計:0円(-20,000円)
税率:20.315%
税額:0円
損出しをしたことにより、2年分の利益が損失で相殺され、一切の税金がかかりませんでした。更に2024年に20,000円の繰越損失が発生しますので、翌年も税額は低く抑えられます。含み損を抱えたままにするか、クロス取引を使って損失を確定するかの違いで、これだけ節税効果が生まれます。
損出しと損切りの違い
損出しと損切りは何が違うのでしょうか。損出しのポイントは売却して損失を確定し、同一銘柄を買い戻すことです。損切りは同一銘柄の買い戻しはしません。どちらも損失を確定するので節税効果が生まれるのは同じです。損失を出した後に値上がりを期待して別銘柄を買うか、節税目的で含み損を損失に切り替えるかの違いです。損出しの概念を知っていると、投資戦術が変わってきます。2つの違いは意識すると良いでしょう。
注意すべきポイントを解説
節税効果の高い損出しですが、知識として頭に入れておかなければならないこともあります。思っていたよりも節税効果が生まれない、損失確定の年がずれてしまったなど、想定外のことが起こらないようにしましょう。
同一営業日に行わない!
最も注意すべきなのが同一営業日に売りと買いを行わないことです。同一営業日にクロス取引をしてしまうと、取得単価が平均額になってしまいます。これは買いが先にあったものとみなされるもので、特定口座の仕様によるものです。
例えば、1,000円で保有していた銘柄が500円に下がり、損出しをしようと同一日に売りと買いを行ったとします。その場合、取得単価は1,000円と500円の平均値である750円となります。売却額は500円なので、1株あたりの損失額は250円。1,000株を保有していたとすると合計損失額は25万円となり、効果が半減します。
ただし、信用取引を活用すると取得単価は平均化されません。すなわち、現物を売って信用買いすることで、同一日であっても500円で売り買いをすることができるのです。
信用取引とは証券会社から資金を借りて株式を買ったり、株式を借りてそれを売って資金を得る取引のことです。今回説明した損出しの場合は前者となります。50万円を借りて500円の株式1,000株を保有し、手持ちの1,000株を売却して50万円を手にします。50万円を借りた資金の返済に充当するイメージです。口座や銘柄によっては信用取引ができないことがあるので注意してください。
もし、信用取引ができない場合は複数の証券口座を持つことを検討してください。別の証券会社であれば、同日に売買を行っても取得単価の平均化は起こりません。
権利付き最終日までに取引を終える!
権利付き最終日までに取引を終えることも重要なポイントです。権利付き最終日とは、株主がその銘柄を保有する株主権利を得ることができる最終売買日のことを指します。損出しの場合、利益が出た年の損失を確定する必要があります
2022年の利益を相殺したいのであれば、2022年にその銘柄を手放しているとみなされる必要があります。通常、権利付き最終日は権利確定日の2営業日前です。2021年は12月28日、2022年も同じく12月28日です。この日までに損失を確定しておく必要があります。ただし、買い戻しは12月29日以降でも構いません。
損出しした銘柄の株価が上がって利益が出た場合は税金を払う必要がある!
1,000円で1,000株買った銘柄が500円まで下がり、その後700円まで戻ったとします。損出しをしていると、50万円の損失を確定しており、同一銘柄を買い戻していますので、値上がりして売却すれば当然20万円の売却益が発生し、これに税金がかかります。損出しをしていなければ、含み損が50万円から30万円に変化しただけです。損出しをして値上がりをすれば、税金を払う必要があることは頭に入れておきましょう。
手数料がかかる
売買による手数料がかかることにも注意してください。確定する損失額が小さいと手数料の方が高くなってしまうことがあります。主な証券会社の税込み手数料は以下の通りです。
【楽天証券/SBI証券】
5万円まで:55円
10万円まで:99円
20万円まで:115円
50万円まで:275円
100万円まで:535円
【野村證券(店舗)】
20万円以下:2,860円
20万円超50万円以下:1.4300%
50万円超70万円以下:1.1000%+1,650円
70万円超100万円以下:0.9460%+2,728円
※詳細は証券口座のページをご覧ください。
ネット系の証券会社は手数料が極めて低く抑えられていますが、野村證券のような対面型の証券会社はやや高めに設定されています。もし、損出しを考えているのであれば、担当者にその旨を伝えて手数料を勘案してどれだけ効果が出るのかを確認することをお勧めします。
積み上げた保有期間がなくなってしまう
保有期間に応じて株主優待の質が上がる銘柄があります。例えば、「業務スーパー」の神戸物産は1,000株を保有する3年未満の株主にはJCBギフトカード10,000円分が優待となりますが、3年以上の保有だと15,000円分にグレードアップします。保有期間が切り替わることで、一部銘柄は優待が異なることに注意してください。
確定申告をする必要はあるのか?
証券口座がどれに該当するのかによります。源泉徴収ありの特定口座であれば、配当金、売却益などの計算は証券会社が自動的に行います。その場合、株取引における確定申告の必要はありません。ただし、複数の証券口座を持っており、損出しを行った場合は確定申告が必要です。注意点としては、普段確定申告をしない会社員などの場合、売却益によって所得額が増えることが挙げられます。所得額が増えると還付金が低くなることがあります。
仮装売買には当たらないのか?
この投稿をInstagramで見る
損出しは仮装売買に当たるのではないか、という議論がよくされています。仮装売買とは、他の投資家を誤解させることを目的とした実質的に権利の移転を伴わない有価証券の売買をいいます。損出しが仮装売買に該当すると言える、言えないということは明言できません。ポイントは目的です。仮装売買は投資家を誤解させることを目的としています。損出しは損失を確定することを目的としています。
仮装売買は商いが活発に行われていると見せかけて他の投資家を呼び込み、取引を誘因することを狙って行うものです。損出しがそれに該当しないことは明らかです。
ただし、クロス取引で注文する際に「仮装売買と判定される恐れがあります」などの注意書きが表示されることがあります。個人が損失を確定する目的で行っている限りは、問題ないと考えられます。ただし、取引は自己責任の判断で行ってください。
株取引のテクニックを知って賢く利益を出す
株取引は知識の有無で最終的な利益の出し方が大きく変わります。銘柄選定やポートフォリオの組み方に頭を使うことも重要ですが、節税方法を知ることも手法としては重要です。これは会社経営とも近いものがあります。損失が繰り越せることなどは、あまり知られていません。正しい知識を得て上手く利益を出せるようにしましょう。
損出しは、節税効果によって生じた資金を別の銘柄の購入原資にすることができます。その銘柄から利益が出ることにも期待でき、非常に効果的な手法です。