相続税対策に不動産が向いている理由|効果的な節税を行うポイントとは
Aventure編集部
すでに多額の資産を有しており、将来の相続税を試算してみて驚いた経験はないだろうか。
日本の相続税率は最高で55%と高額。控除額を加味しても相続財産の約半分にあたる税金が課される場合もある。少しでも多くの資産を次の世代に残すなら、何らかの方法で資産の評価額を下げることが有効だ。
本記事では現金を不動産に換えることによる相続税対策について解説する。相続税を節税したい方はぜひ参考にしてほしい。
不動産を購入することで将来の相続税対策に利用できる
結論から言って、将来の相続税が心配な場合は資産の現金を使って不動産を購入することが有効な方法だ。
なぜ有効と言われているかの理由については、以下で詳しく解説する。
不動産の相続税評価額は時価より低く評価される
相続税対策に不動産購入が有効とされる理由は、不動産の「相続税評価額」が不動産の時価よりも低く評価されるためだ。評価が時価より低くなっただけ、相続税を少なく計算できるようになる。
全て現金で相続すると相続財産の評価は1億円のままだが、時価1億円の不動産を購入すれば相続税評価額で計算される。相続税評価額が7,000万円だった場合、3,000万円分の相続財産を圧縮でき、相続税の節税につながる計算だ。
相続税における不動産の評価の計算方法
相続に不動産を利用するなら、どのように評価が行われるかを知っておくべきだ。不動産は大きく分けて「家屋」「土地」に分けて評価を行う。
それぞれの評価方法を見てみよう。
家屋の評価方法
建物は固定資産税評価額に基づいて評価される。「固定資産税評価額×1.0」が家屋の評価額だ。実際の建物の購入価格よりも固定資産税評価額の方が低く、算定土地と同様に建物もこの差額を活用して節税できる。
新築物件の場合、建築費の約60%が一般的だ。
さらに、物件を賃貸に出している貸家の場合、その分だけ固定資産税評価額から減額される。
貸家の評価減は「借家権割合30%×賃貸割合」で計算が可能だ。
土地の評価方法
建物が固定資産税評価額で評価されるのに対し、土地は国税庁が算定した路線価に基づいて評価される。
路線価は「国税庁が公表している土地価格」で、相続税や贈与税を計算する基礎のことだ。
路線価の指定されていない地域(市街化調整区域等)は「倍率方式」を採用しており、固定資産税評価額に倍率を乗じて計算される。
【路線価方式】 路線価×面積×補正率 【倍率方式】 固定資産税評価額×倍率 |
路線価は実績価格の約80%を目安に算出されるのが一般的だ。ただし、土地の形などで奥行価格補正などの補正が入るため、地域によっては80%以上の乖離が発生することもある。
この差額を利用し、相続税評価額を圧縮させることが可能だ、
また土地を貸したり貸家を建てている土地だったりした場合、さらに評価額が減額される。
例えば土地を貸した場合は「借地権割合(30~90%)」だけ評価額が減少する。路線価で1億円、借地権割合が70%の場合、評価額は3,000万円になる計算だ。
貸家建付地は(貸家を建てている土地)は「借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合」の分だけ評価が減額される。
不動産で効果的に相続税対策するためのポイント
不動産を使って効果的に節税するには、いくつかのポイントを把握しておこう。
所有する不動産を賃貸物件とする
不動産を他人に賃貸すると、自分で思うように処分したり使用したりすることが難しくなる。活用が限られるため、資産の価値が下がることで相続税評価額が下がる。
たとえば「貸家建付地」のケースを見てみよう。計算式は以下のとおりだ、
土地(自用地)の相続税評価額-(土地(自用地)の相続税評価額×借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合)
自用地は時価の約80%と仮定する。借地権割合は30~90%と差があるが、今回は70%と仮定しよう。
借家権割合は全国一律で30%とする。賃貸割合は入居率に比例するが、今回は空室なく100%で計算してみよう。
1億円×80%-(1億円×80%×60%×30%×100%)=6,560万円
今回のケースでは時価と比べ、3,000万円超の節税になる計算だ。
小規模宅地等の特例を利用する
居住用や事業用に使われていた宅地等の場合、評価額の一定割合を減額できる(小規模宅地の特例)。
投資用不動産「貸付事業用宅地」に該当し、200㎡までの評価額が50%減額できる。
借金をして不動産を購入する
相続税を計算する際は借入金等の債務は相続財産から控除される決まりだ。
自分が持っている資産を使用せず金融機関でローンを組んで不動産を購入することで、相続税を圧縮することもできるだろう。
タワーマンションの購入で節税も可能
マンション、とりわけ高階層のタワーマンションの部屋を購入することで節税することも可能だ。
不動産を購入することで相続税評価額が下がるのはすでに紹介したとおりだが、高階層のマンションほど相続税評価額が下がりやすい特徴もある。
建物は同じ占有面積なら低階層も高階層も評価は変わらない。一方で市場価格は高階層であるほど高額になるため、高階層を買ったほうが節税効果も相対的に大きくなるのだ。
ただし、平成29年の税制改正で今までよりも上手く節税できなくなったことも事実だ。それまでは上階層でも下階層でも、占有面積が同じなら固定資産税は同額だった。税制改正では1階上がるごとに固定資産税の負担が約0.256%上がってしまう。まだタワーマンション節税は可能なレベルだが、今後は不可能になる税制改正が行われる可能性もあるだろう。
相続時精算課税制度を利用する
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子や孫に財産を贈与した場合、限度額の2,500万円まで何度も控除できるという贈与税の特例だ。
将来は相続税として課税されるデメリットがある制度だが、課税額は贈与時の時価というのがポイントになる。価値が大幅に上がることが見込まれる財産を贈与することで大幅な節税も可能だろう。
不動産による相続税対策のリスク・注意点
不動産を活用した相続税対策は幅広く行われるが、リスクや注意点もあることを知っておこう。
不動産を購入できる資金があることが前提
不動産を使った節税は効果が大きいが、そもそも不動産を購入できるほどの資金がないと利用できない。
ローンを組んで不動産を購入することもできるが、老後にローン返済まで考える必要がある。基本的に、資金に余裕がある場合に行える方法として理解しておくべきだろう。
賃貸での保有はコスト面を考えないといけない
賃貸物件にすることで、単に不動産を保有するよりも大きく節税が可能だ。ただし、賃貸するにはリスクもある。
まず空き部屋が多い家賃が入らない。それまでの返済計画に支障が生じることもあるだろう。
また長期間のローンは金利が上がると返済額が増える。家賃収入で補えたはずが、金利上昇によって難しくなるリスクも知っておくべきだ。
不動産ばかりでは簡単に遺産分割できなくなる
不動産による節税ばかり考えていると、相続争いの種になる可能性がある。
現金と違い、不動産は簡単に分割できない。相続人が複数いる場合、遺産相続について争いに発展することもある。事前に相続人に不動産購入を相談して遺書を作っておくといった対策が必要だ。
自分の意志で購入していないと無効
相続の際に相続税評価額で評価されるためには、被相続人(亡くなる側の人)が自分の意志で不動産を購入する必要がある。
代筆や代理での契約などの場合は税務署が否認し、時価での評価になる場合があるので注意が必要だ。
露骨な相続税対策は無効
明らかに相続税対策だけが目的と判断された場合には、節税対策が無効になる可能性もある。
たとえば「亡くなる直前に購入していた場合」。露骨な相続税対策と見なされ、実際に否認されたケースもある。
相続税の節税に有効な不動産の特徴
不動産ごとに相続税の節税に向いているもの・いないものがある。
時価と相続税評価額に乖離がある
不動産による節税は時価と評価額の乖離を利用する以上、時価と相続税評価額の乖離が大きい土地・建物ほど節税には有利だ。
具体的には「都心の物件」「駅前の物件」などなら相続税を大きく圧縮できる可能性がある。都心の一等地で時価が高騰しているところは評価額との乖離が大きく、節税効果も大きくなりやすい。
流動性が高い
相続後に売却して換金することを考えると、流動性の高い物件であることが望ましい。「購入希望者が多い」「金融機関で融資がつきやすい」といった特徴のある物件なら、将来的に換金しやすい点で有利だ。
ただし、購入しやすい価格であることも重要になる。
都心の物件とはいえ、数十億円などあまりに高額だと買い手がつかない。複数の不動産に分けて多くの人が購入しやすい価格に抑えるなどの対策も検討する必要があるだろう。
現金を不動産に換えることで効果的な相続税対策を
不動産の購入が節税につながるのは、相続税評価額と時価に乖離が発生するのが理由だ。乖離が大きい物件、たとえば都心や駅前の一等地の物件を購入できれば節税効果がより大きくなる。
ただし、あからさまな節税対策は税務署に否認される可能性もあるので注意が必要だ。現金と違って分割しにくい点も踏まえ、効果的に節税できるように準備を進めよう。