増田伸也さんインタビュー:「童心に帰り、夢中になって限界ギリギリに挑めるサーフィン」
増田 伸也
昇進や起業など立場や責任が重くなるほど、仕事に没頭しリフレッシュする間は減ってしまいがちです。増田伸也さんも同じように起業をしてしばらくするまでは仕事一筋の状態でした。そんな増田さんですがふとしたキッカケで学生時代にハマったサーフィンを40歳から本格的に再開します。
「大人になり責任を持った今だからこそ、サーフィンに没頭する時間は人生において大きな価値がある」と言います。人を魅了する服を作り続ける増田さんが、限られた時間でサーフィンをどう楽しまれているのか、趣味を持つ価値について教えていただきました。
【プロフィール】
増田 伸也
VARIARCH Co.,Ltd. CEO / OURET designer
1975年生まれ。服飾学校卒業後、革小物・シルバーアクセサリーのブランドでデザイナーとして在籍。その後複数のメンズアパレルを経験し2007年7月「ヴァリアーチ」として事業をスタートし、2008 S/Sよりメンズブランド「OURET」を展開。趣味はサーフィン。40歳から週に2回、多い時で週に3回はサーフィンをしている。
見たこともない景色を見せてくれるサーフィン
ーー息継ぎができないほど泳ぎが苦手だったと聞いて驚きました。
そうなんです。元々泳ぎが苦手でした。高校一年生の夏、サーフィンをやっている友人と海水浴にいき、波に乗っている友人を見て「あんな風に波に乗れて羨ましいな」と思っていましたね。でも、一度勇気を出して、ボードを借りて岸から遠いところまで浮かびにいったんです。足がつかない沖から岸を見た時に、「泳げなくてもサーフボードさえあれば、見たことのない景色を見れるんだ」と感動しました。その時が私がサーフィンにハマるキッカケでしたね。
そこから先輩にサーフボードを3万円で譲っていただき、月に2回ほど海に行くようになりました。ハイパフォーマンス用のサーフボードを特注で作るなど、波乗りに没頭しましたね。
ーーでもそこから、一度サーフィンから離れた期間があったんですよね?
30代前半までは独立のために仕事に全てをかけていたので、なかなかサーフィンには行けなかったですね。学生を卒業した後も独立することを念頭に動いていたので、大手企業ではなくブランドの立ち上げを経験できる環境に身を置いていました。「かっこいい人やおしゃれな人に選ばれる服を作りたい」という思いで服づくりに没頭する日々でしたね。
サーフィンを再開したのは、40歳の時に身近な人と家族ぐるみで海にBBQに行ったことがキッカケです。男たちはサーフィンをしようという話になったのですが、波が強くてうまく乗れませんでした。学生の時にできていたことができないことが非常に悔しくて、その時に「このままじゃダメだ」と思ったんです。そこから毎週2回は海に通う日々が始まりました。
童心に帰り、コトに没頭する時間を与えてくれる
ーー40歳になってから趣味を再開されたのですね。
そうなんです。うまく波に乗れなかったことが本当に悔しくて、特注で作ったハイパフォーマンス用のサーフボードも手放して、初心者用のものを買い直しました。学生当時のレベルにまで戻るまでには半年位かかりましたが、週に2回以上は必ずサーフィンをしています。雨や雪が降っても車が通れる限りは必ず海に行っていますね。
ーーご家族がいる中でどんなスケジュールで過ごしているのですか?
妻の負担を増やしてはいけないので、子どもたちが寝てから準備をし、21時から22時くらいに家をでます。そこから1時間から2時間ほどで仲間たちと現地に借りている一軒家に到着するので、そこに泊まって仲間と寝酒を飲み4時から5時に起きてサーフィンを開始するんです。3時間ほど波乗りを楽しんだら車に乗り、9時から10時の間には家に帰るようなスケジュールになっています。
平日に1回、土日に1回。スケジュール次第ではもう1回サーフィンに行く感じです。今日は行くぞ!とその日の気分で決めたり、行ける時に行ったりする形ではなく、生活の中にスケジュールが組み込まれています。展示会などで忙しい時は夜遅くまで仕事をすることもありますが、サーフィンに行くことが決まっているので仕事もうまく調整するんです。サーフィンに行く前はよく飲みに行っていたので、飲みにいく時間がサーフィンに変わった感じですね。
ーーサーフィンを楽しまれている方はどんな方が多いですか?
40歳で海に戻ってきて感じますが、私のような復活おじさんサーファーは多いです。毎日のように波に乗っている方も多くて、年を重ねてもサーフィンを続けられている姿にパワフルさを感じますね。みなさんスケジュールをうまく調整するなどして、仕事と両立されています。60歳から70歳ぐらいのご年配の方もいて、長く趣味を楽しんでいる姿を見ると「自分も負けていられない」「年を重ねてもサーフィンを楽しみ続けよう」と刺激をもらえます。時間の使い方がうまい人が多く、そういう人たちに囲まれている居心地の良さもサーフィンを続ける理由の一つです。
もっとうまくなりたいという想いが、海へと足を運ばせる
ーーサーフィンを再開してどんな変化がありましたか?
心が豊かになりました。時間の使い方がうまくなったり、サーフィンを通じて仲間と出会ったり、仕事が生まれたりもしましたね。海の近くに借りている一軒家はサーフィン仲間10人で借りています。カメラマン、スタイリスト、デザイナーなどファッション関係の方が多く、ブランドのルックブック製作に携わってくれたり、ウェットスーツをオリジナルで開発している仲間もいてみんなでセールスしたりもしています。
東京で出会った人にサーフィンを週に2〜3回していると伝えると驚かれます。東京にいる人で週に2〜3回も海に行っている人はかなりマイノリティーだと思うので、時間をうまく使えている方かなと思います。
ーー海に向かう時、どんな気持ちになるんですか?
ショートトリップのような感覚ですね。主に千葉の九十九里でサーフィンをしているのですが、アクアラインを越えるあたりで、日常から抜け出した感覚になります。「さぁこれから楽しむぞ」と気持ちが高揚していますね。前日の天気図から波を想像しながら車を走らせています。サーフィンを終えて帰りの車ではすでにサーフィンをしたくなっているほど中毒になっています。
ーーなぜサーフィンにそこまでハマっているのですか?
サーフィンは終わりがないからだと思います。一つとして同じ波がないし、毎回が挑戦なんです。常に理想のサーフィンをずっと追求しているからかもしれません。週に2回がうまくなるギリギリのラインで、実力が衰える前に復習していくようなイメージで海に足を運んでいます。毎回小さな目標を持って波に挑み、イメージをすり合わせていくのが楽しいんです。
サーフィンをしている時は、仕事をしている時の自分とは別の自分になれます。サーフィンをしている自分は純粋で、夢中になっているんです。子どものように目の前のことに没頭していますね。サーフィンしている時はスマホには触れられません。電話やメールに反応する時間はないですし、日常から完全に解放されています。そんな貴重な瞬間を持てているのは人生においても大きいですね。
ーーサーフィンでこだわっていることは何ですか?
ボードの形や後ろについているフィンの形や大きさ、ウェットの良し悪し、グローブやブーツ、キャップなどあらゆるアイテムにこだわっていますね。特にサーフボードは自分の体や技術に合ったものを使えているかどうかを気にしています。色んなものを試しながら、この6年で10本ほどは乗り換えています。波のコンディションに合わせてサーフボードを乗り換えたりもします。仲間とシェアしている家には全部で40本ほどサーフボードがあるので試し放題です(笑)
責任が増した今だからこそ、趣味の価値はとてつもなく大きい
ーー学生の時のサーフィンと、今のサーフィンにはどんな違いがありますか?
経営者になって責任が生まれ、決めないといけないことや、やらないといけないことが増えました。どうしてもふとした瞬間に仕事のことを考えてしまうので、サーフィンを通して無になれる時間があるのはリフレッシュやリラックスの観点で大きな意味がありますね。
そして、サーフィンをして自然と向き合うことで自分の小ささに気づけるんです。そういった意味でサーフィンは自分に謙虚さを与えてくれているのかもしれません。
ー新しい挑戦に向き合う原動力にも合っているとか?
サーフィンはやったことがない人からすると、気持ちよさそうに見えるかもしれません。ですがそんなことはなくて、9割はしんどいです。ほとんど波を追いかけてパドルしているのでずっと腕が張っています。うねりの位置や潮の満ち引きで波の動きが変わるので行ったりきたりを繰り返しているんです。波に乗っている時間なんて数秒からよくて十数秒で、どこからいい波が出てくるかはわかりません。海に着いたら常に周りを見渡し、いい波を探し続けます。毎回同じ波はないのでサーフィンでは反復練習ができません。頭を働かせて波を予測し、そこに向かっていく感覚ですね。波に乗るために常に試行錯誤しています。9割はしんどいですけれど1割の楽しさがしんどさを超えてくれるんです。
ーー経営と同じように、サーフィンでも挑戦を続けているのですね。
自然に立ち向かい、「波を乗りこなせた時は勝ち、乗りこなせなかった時は負け」のような感覚になっています。その日の結果次第では、家に帰る時に悔しい思いをしている時もあれば、高揚している時もある。満足できるゴールはないので、波に挑戦し続けていますね。高い波の時は諦める時もあるけど、いつかはあの波に乗りたいと思って自分を磨き続けます。挑戦し続けるというあり方をくれているのはサーフィンのおかげかもしれません。経営も闘いなので、闘うモチベーションとしては同じものがありますね。
毎回、限界をこえてやるという思いで波に乗っていると、時折、自分のレベル的にこの波なら乗りこなせるかどうか絶妙なラインの高さの波がきます。その時に逃げるか挑むかの判断、葛藤があります。その瞬間のアドレナリンの出方はすごいんです。やれるやれないかの判断は一瞬。躊躇すると波に飲まれてしまう。限界ギリギリの世界がそこにあり、その瞬間は仕事をしている時の自分にも活きていて、人生を豊かにしてくれているのだと思います。
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