資産管理会社を設立すべき? メリット・デメリットと節税の仕組みを解説
Aventure編集部
不動産や有価証券、車など豊富な資産を保有している人の場合、資産管理会社を設立して法人所有にすると、節税や相続の面でメリットがあります。最大のメリットは損益通算と繰越控除です。有価証券など一部の黒字が出ても、不動産で赤字になれば利益を圧縮することができます。損益通算は個人でもできますが、資産管理会社を通すことでその幅を広げることができます。その他、繰越控除も個人と法人で期間に大きな違いが生じます。この記事では資産管理会社のメリット・デメリット、設立する際の注意点を解説します。
資産管理会社とは?
資産管理会社は不動産や有価証券など多額の資産を所有する人が、その資産を管理する目的で設立するものです。例えば、メルカリの大株主に株式会社suaddがあり、この会社はメルカリ株を4,690,000(4.16%)保有しています。このsuaddはメルカリの創業者である山田進太郎氏の資産管理会社です。規模の大きいオーナー経営者は、資産管理会社経由で株式を保有することがよくあります。資産管理会社はプライベートカンパニーとも呼ばれます。
資産管理会社は事業会社と異なり、資産家向けの会社です。主に節税面でのメリットが大きいのが特徴です。
資産管理会社のメリット・デメリット
メリット
・損益通算
・繰越控除
・実効税率
・所得分散
・相続対策
最大とも言えるメリットが損益通算です。資産管理会社は複数の不動産、株式を所有するのが普通です。その場合、利益が出ている不動産もあれば、損失を抱えている株式もあります。資産管理会社は損益通算となりますので、黒字を赤字で圧縮できます。これが節税効果へと繋がるのです。
損失を出した場合も、最大10年までの繰越控除が認められています。一時的な損失を10年で均すことができるのです。繰越控除は個人でも認められていますが、個人の場合は3年です。法人の方が期間が3倍以上長くなります。
税率の面でも法人の方がメリットが高くなります。個人の場合は所得税と住民税で約55%の税金がかかります。資産管理会社の場合は約23%と半分以下の水準に抑えられます。
家族を役員にし、役員報酬を支払うことができるために収入を分散させることもできます。役員報酬は経費となりますので、資産で得た黒字を圧縮し、節税効果が生まれます。
不動産を相続する場合は登記が必要で、登録免許税がかかります。生前に不動産を贈与する場合は不動産取得税も必要です。資産管理会社であれば、その株式を贈与すれば済みます。登記の手間や費用は発生しません。
デメリット
・設立と運用コスト
・均等割法人住民税
・資産移転コスト
・海外遺産の相続の手間と時間
・廃業コスト
最大のデメリットと言えるのが、会社を設立するための費用と運用コストです。法人の設立には以下のような費用が発生します。
・法人登記登録免許税
・定款認証手数料
・定款謄本手数料
・収入印紙代
・司法書士への支払い
株式会社だと概ね30万円前後と考えてください。また、維持管理するコストもかかります。業務内容として想定されるのは、以下のようなものです。
・帳簿管理
・年末調整
・社会保険の加入手続き及び保険料の支払い
・株主総会や取締役会の開催と議事録の作成
年末調整や社会保険の加入手続きは税理士、社労士のアドバイスが必要になります。依頼をすればその分の費用が発生します。
資産管理会社が利益を出せば税金を支払わなければなりません。法人税、法人住民税、法人事業税です。このうち、赤字でも支払わなければならないのが法人住民税です。赤字であっても毎事業年度ごとに7万円を納めなければなりません。
資産移転コストも見逃せません。資産管理会社が保有する現金などをオーナーなどの個人が使用する場合、資金を移動する必要があります。この資金は役員報酬、配当などという形で支払われます。この場合、総合課税として最高55%の税金がかかります。資金を移す自由度は制限が課されるでしょう。
不動産を海外に所有している場合で、相続する場合には手間がかかります。例えばアメリカに不動産を保有している場合、名義変更するにはプロべート(裁判所管理の手続き)が必要です。プロべートは遺言の有無に関係なく発生します。手続きが終わるまでに最高3年かかると言われており、その間資産は凍結されます。こうしたやり取りには国際税務に精通したプロフェッショナルを通すことになり、その費用が発生するのが普通です。
資産管理会社を廃業する際も費用がかかります。不動産を会社名義から個人へと移す必要があるからです。登記費用や税金が発生します。
法人を設立した方が良いパターン
資産運用・副業をする会社員
個人の所得税は高収入であるほど税負担が重くなります。会社員が個人事業で不動産投資や株式投資、副業などで多額の収入を得ている人は資産管理会社の設立を検討してください。
資産管理会社の実効税率は23%程度です。個人の所得からは最大で55%の税金が引かれます。年収が1,000万円を超える会社員で、副業をしている人は法人化した方が税金を低く抑えられる可能性が高いです。
高収入の会社員が、税金を低くするために木造の古い集合住宅に投資をする節税方法があります。法人を設立し、副業と収益物件への投資、節税目的の物件購入などを組み合わせることで、節税効果は大きくなります。
相続税が発生する可能性が高い資産家
個人の資産を贈与する場合も最大で55%の税金が課されます。しかし、資産管理会社からの報酬として家族にお金を支払い、それを相続税の納税資金としてストックしておくことができます。報酬によって経費計算ができる上に、相続時に不動産などを物納するリスクを回避することができます。
中小企業、スタートアップ経営者
オーナー経営者は自社株の相続に悩むケースがあります。保有する株式を生前に家族に贈与することで、相続税を節税できます。しかし、家族間で会社の経営に対立が生じる場合、株式が分散するなどの経営リスクがあります。
しかし、保有する株式を資産管理会社に移し、資産管理会社の株を贈与すると、オーナーが経営する会社の株式を移転することが難しくなります。自社株の流出や分散を防ぐことに繋がります。
資産管理会社を設立するために必要な書類・手続き
決めるべき内容
・社名
・所在地
・出資者
・資本金額
・決算月
資産管理会社の社名は遊び心溢れるものが多いです。例えば、株式会社じげんの創業者平尾丈氏の資産管理会社は株式会社じょうげん。楽天の三木谷浩史氏の資産管理会社は合同会社クリムゾングループです。2014年までJリーグのヴィッセル神戸を保有していました。ヴィッセル神戸の旧称はクリムゾンフットボールクラブです。チームは資産管理会社が全額出資し、チームカラーはクリムゾンレッドに刷新されました。
出資者は役員報酬を支払う家族は含まれません。出資をした人を出資者に入れてください。資本金は1円から設定できます。事業会社ではありませんので、高額な資本金にこだわる必要はありません。合同会社クリムゾングループでも資本金は9,700万円です。
決算月はいつでも構いません。税理士の繁忙期となる3月は避けた方が良いかもしれません。
必要なもの
・定款
・登記書類
・開業届
・就任承諾書
・資本金
・代表者印
・社印
・銀行印
代表者印や社印は特にこだわる必要はありません。就任承諾書は役員になる人全員の提出が必要となります。設立する資産管理会社の役員に選出されたので、承諾しますといった文章を作成します。
役所の手続き
・法務局:登記書類
・税務署:開業届、青色申告承認申請書
手続きは法務局と税務署で行います。
資産管理会社は合同会社がいいというのは本当か?
資産管理会社は合同会社の方が向いているという見方があります。その理由は設立費用が株式会社より安く、役員の任期がないなどの理由によるものです。
資本金100万円の会社を設立する場合、合同会社の方が14万円安く抑えられます。資産管理会社は役員が変更になることがほとんどありません。その点、合同会社は役員の更新手続きが不要で、手間がかかりません。
ただし、合同会社は一度社員として加入した人を解雇、解任することが簡単ではありません。除名する場合は相手に帰責事由があり、訴えをもって行わなければならないと会社法に定められています。
取締役の選任はどうすればいい?
取締役会設置会社は取締役を3名以上選任する必要があります。資産管理会社は小規模の方が望ましいため、基本的には取締役1名、取締役会非設置にすることがほとんどです。取締役に働いている家族を就任させるときに注意したいのが、兼業状態になることです。家族が会社員としての本業を持っていて、資産管理会社の取締役になった場合、二重身分となります。法律上の問題はありませんが、会社の規則として兼業が禁止されている場合があります。
兼業の禁止が後から発覚した場合、取締役を辞任しなければならないことも考えられます。そうすると、当初計画していた役員報酬による節税スキームが上手く働かないことになり、結果として資産管理会社を設立した意味を失うことにもなります。
資産管理会社の取締役に就任すること自体は何一つ問題はありませんので、働いている会社の人事・総務に兼業が禁止されているかどうかを必ず確認してください。
年収1000万円の複数の収入がある会社員も資産管理会社を
資産管理会社は経営者や資産家のものという考え方は古くなりました。副業や投資で収入を増やすのが当たり前になった時代、会社員こそメリットがあると言えます。設立自体は難しいことではなく、専門的な知識も必要ありません。
特に不動産や株式などの複数の資産を持ち、収入源がいくつかある人にはお勧めの方法です。損益通算や繰越控除による節税効果は目を見張るものがあります。法人の設立で賢く資産形成をしてください。