エンジェル投資家として起業家を支援したい、ベンチャー投資のメリット・デメリットは?
Aventure編集部
2021年上半期のスタートアップの資金調達額は3,245億円で、2017年の年間調達額とほぼ同じ水準となりました(INITIAL調べ)。前年比26%増という数字であり、新型コロナウイルス感染拡大の影響が収まり、再び成長著しい企業への投資熱が高まったことを示しています。かつてスタートアップとして起業を経験し、IPOや売却によって巨額の富を得た実業家が、将来性のあるビジネスに投資する動きも加速しているようです。ベンチャー投資は、上場株や不動産投資よりもエキサイティングであることは間違いありません。
この記事では、ベンチャー投資がどのようなものなのか、始め方や起業家との接点の持ち方を解説します。
ベンチャー投資の潮流
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言はベンチャー投資の潮流を大きく変えました。小売店のEC化が急速に進行。飲食店もデリバリーやテイクアウト需要に応えるためにデジタル化が進みました。行動制限が課されたため、世界的にキャッシュレスの波が押し寄せました。
コロナ禍以降、DXという言葉が頻繁に聞かれるようになりましたが、これはデジタル化を軸として経営戦略を固めることを指しています。大手企業から中小企業まで、DXが活発になると予想されます。この領域は新興企業が得意としてきたものであり、ベンチャー投資が注目されている背景でもあります。
名門ベインキャピタルがヘイに出資
コロナ禍において、ベンチャー投資の潮目が明らかに変わった出来事がありました。誰でもECサイトが構築できるサービス「STORES」を展開するヘイの資金調達です。ヘイは2020年8月に70億円を調達しました。業界を驚かせたのは調達額ではなく、出資者です。YJキャピタルなどのベンチャーキャピタルに並び、アメリカの名門投資ファンドベインキャピタルが名を連ねていたのです。ベインキャピタルが日本のスタートアップに投資をするのは今回が初めてとなりました。
ベインキャピタルといえば、東芝メモリ(現:キオクシア)の2兆円に及ぶカーブアウトを手掛けた名門中の名門。かつてすかいらーくの再建や、雪国まいたけの創業者を追放するという異例のMBOと再上場を仕掛けた実力者でもあります。成熟した企業を買収して価値を高めるバイアウトファンドとして活動してきたベインキャピタルが、ベンチャー投資を行う。それだけこの分野が活発になっていることの証左でもあります。
国内の有望なスタートアップと資金調達状況
Preferred Networks
AIベンチャーのPreferred Networksは日本の数少ないユニコーン企業の一つです。直近では2019年6月にJXTGエネルギーから10億円を調達しました。石油精製プラントの最適化、自動化に関する研究を進めます。Preferred Networksは国内の想定時価総額ランキングで1位を獲得しており、想定時価総額は3,571億円に及んでいます。
TRIPLE-1
半導体を開発するスタートアップ企業です。Bitcoinマイニング用の高性能マイクロチップ「KAMIKAZE II」やAIプロセッサ「GOKU」を開発しています。ファブレスと呼ばれる工場を持たない半導体メーカーは、米Broadcom、Qualcomm、NVIDIAなど有力企業がひしめいています。半導体分野で後れを取った日本で、TRIPLE-1の成長に期待が集まっています。2020年8月に9.8億円の資金調達を実施しました。
スマートニュース
スマートフォン向けニュースアプリを運営しています。2021年9月に過去最大となる251億円を調達しました。出資者には国内外のベンチャーキャピタルが軒を連ねており、米国での成長に向けた足掛かりをつかみました。想定時価総額は2,100億円以上とされています。
Spiber
クモの糸をベースとした人工タンパク質素材を開発している企業。高性能アウター「ムーンパーカ」をゴールドウィンと共同開発して一般向けに販売しました。2021年9月に344億円を調達しています。出資者の中には投資ファンドカーライルが含まれています。カーライルもベインキャピタルと同じ名門投資ファンドです。Spiberはカーライルからの取締役派遣を受け入れました。
Mobility Technologies
タクシーの配車アプリ「Japan Taxi」「MOV」を運営する他、タクシー内の広告、決済なども行う企業です。日本交通ホールディングスとディー・エヌ・エーの配車タクシーサービスが2020年2月に経営統合して誕生しました。2020年7月にNTTドコモ、電通などから出資を受け、累計調達額は266億円となりました。
HIROTSUバイオサイエンス
線虫がん検査を行う世界でも珍しいバイオベンチャーです。2021年3月にSBIインベストメントが設立したプライベートファンド「SuMi TRUST イノベーションファンド」からの出資を受け入れました。
TBM
炭酸カルシウムなどの無機物を50%井所含む、無機フィラー分散系複合素材「LIMEX(ライメックス)」を開発しています。紙やプラスチックに代わる新素材として注目を集めています。2021年7月に韓国で石油精製業などを行う3大財閥の一つSKグループから135億円を調達しました。SKグループはTBMの第2位の株主となり、支配力を増しました。韓国でのビジネス展開に期待がかかります。TBMも数少ない日本のユニコーン企業です。
クリーンプラネット
量子水素エネルギーなどのクリーンエネルギーを行う企業。量子水素エネルギーはガソリンの1,000倍以上のエネルギー密度を持つと言われており、風力や太陽光に代わる次世代エネルギーとして注目を集めています。三菱地所などから出資を受けており、想定時価総額は1,298億円と見られ、ユニコーンとして頭角を現しています。
Paidy
PayPalが300億円で買収した後払い決済サービスの企業です。巨額買収が成立したことにより、スタートアップではなくなりましたが、決済プラットフォームが注目されていることを示すものとして紹介します。Paidyは後払いサービスをいち早く開発し、消費者と加盟店を繋ぐプラットフォームを提供しました。コンビニなどの支払いを翌月にまとめて一括払いできる仕組みを提供しています。単なるキャッシュレスサービスではなく、他のサービスとの差別化を図ったことが成功へと繋がりました。
ベンチャー投資のメリット・デメリット
ここからは個人投資家がベンチャー投資をする際に注意するポイントやメリット、デメリットを解説します。
メリット
・IPOでの大きなリターンが期待できる
・節税に繋がる
・若い経営者などとの交流が深まる
・経営に参与できる
・次世代のビジネスを垣間見ることができる
・社会貢献ができる
ベンチャー投資のメリットは大きく2つの側面に分けられます。1つはお金。もう1つはビジネスです。スタートアップは上場やM&Aによるエグジットを目指しており、薄い利益を出して投資家に配当を出すよりも、規模の拡大を目指します。エグジット時のリターンは非常に大きくなります。上場株はTOBなどによって株価が急騰することもありますが、なかなかそうしたイベントに出会うことはありません。「ベンチャー投資促進税制」という税制優遇制度もあります。
また、ビジネスとしての面白さもあります。スタートアップはクリーンエネルギーや新素材、デジタル領域など、刺激的なアイデアを社会に浸透させようと奮闘しています。そうしたビジネスに関わり、場合によっては経営に参与できる面白さがあります。投資家や経営者同士の結束が固く、人脈を広げるチャンスとなる点もメリットの一つです。新興国でビジネスを展開している企業も多く、貧困などの社会問題を撲滅する社会貢献の側面もあります。
デメリット
・倒産や早期回収によって出資金が失われることがある
・流動性が低い
・ビジネスの内容を精査しにくい
スタートアップは必ず上場できるわけではありません。ベンチャーキャピタルで出資する10社のうち、上場するのは1~2社程度と言われています。リスクが高い投資だと理解しましょう。最悪の場合は倒産することも考えられます。自動で衣服を畳む家電を開発していたセブン・ドリーマーズは、パナソニックや大和ハウス工業などから100億円に及ぶ資金を調達していました。時代の寵児と呼ばれていましたが、実は機械がまるで形になっておらず2019年4月に倒産しています。
上場株と比べて流動性が低く、保有する株式の譲渡が難しいという問題もあります。基本的には売却する相手を自分で見つける他ありません。急に資金が必要になっても、早期売却はできないと考えた方が良いです。目論見書や有価証券報告書があるわけではないので、会社の内容を把握しづらい点もデメリットです。
投資先の探し方
投資のやり方は大きく3つあります。エンジェル投資家としての直接出資、ベンチャーキャピタルへの出資、マッチングプラットフォームを通した出資です。エンジェル投資家の多くは人づてに経営者と出会い、出資を決めることが多いです。顧問などとして経営に参与することもできます。従業員などとの交流も多く、スタートアップの発展に助力しているという実感が得られます。
ベンチャーファンドの出資も比較的手軽に行えます。一口100万円程度から出資できます。地方創生や大学ファンドなど、様々な形があります。 経営者と投資家を繋ぐマッチングプラットフォームも人気です。最も有名なサービスは日本クラウドキャピタルが運営する「ファンディーノ」です。2021年10月末の段階で累計成約額は69億円。8万人を超えるユーザーが使っています。企業のアイデアやサービス、事業計画に対して出資をするもので、クラウドファンディング型になっています。数万円程度で気軽に出資ができる点が魅力となっています。
熱い企業家との触れ合いが人生を豊かにするベンチャー投資
ベンチャー投資は社会の発展を支える役割を担っています。株式投資や不動産投資は安全性が高く、確実性の高いリターンが得られますが、物足りなさを感じるのも事実です。社会に大変革を起こそうとする情熱的な経営者などとの交流を通して、投資家としての人生を豊かなものにすることができます。