大注目の投資テーマ「半導体」銘柄の紹介と解説、伸び盛りの企業は?
Aventure編集部
国が総力を挙げて育てようとしている産業が半導体です。日本政府は台湾の世界的な半導体メーカーTSMCの製造工場を熊本県に誘致することに成功。2022年着工、2024年に稼働すると見られています。TSMCの半導体は主にソニー、トヨタに供給される計画です。半導体は正に国策とも言える産業に成長しました。
テレビやニュースで頻繁に取り上げられる半導体ですが、その全貌は今一つつかみきれません。これはこの産業が設計、製造において極めて複雑であり、多種多様な会社が関わっているためです。
この記事では、半導体産業の全貌を解説し、国内の有望な半導体銘柄を紹介します。
半導体産業の全貌
半導体はスマートフォンやPC、自動車、デジタルカメラなど、身近な家電だけでなく、工業用ロボット、農業用機械、飛行機など生活を支える数多くのものに活用されています。
デジタル社会を支える重要基盤であり、軍事機器にも使われていることから安全保障にも直結。国家の重要な戦略技術と言えます。
日本だけでなく、アメリカ、中国、ヨーロッパ、台湾など、世界中の国々が半導体への投資を加速中です。
各国の半導体の取り組み
半導体先進国は巨額の投資計画や補助金制度を設け、産業を育てるのに余念がありません。
アメリカ
バイデン大統領は5.5兆円の半導体産業投資を含むCHIPS法案に賛意を示し、2022年7月27日に上院で可決されました。
半導体の製造分野は台湾、韓国、中国が一歩リードしています。アメリカはインテルやグローバルファウンドリーズなどに資金を提供し、競争力を後押しすると見られています。
中国
「国家集積回路産業投資基金」を設置し、半導体関連技術へ5兆円を超える大規模投資を実施。更に地方政府でも合計5兆円を超える半導体産業向け基金も存在すると言われており、合計10兆円超という巨大な基金を抱えています。
ヨーロッパ
2030年に向けたデジタル戦略を発表。デジタル機器の中核部品であるロジック半導体や量子コンピューターなどに17.5兆円を投資する計画を立てています。
台湾
補助金の優遇策を開始。ハイテク分野を中心に累計2.7兆円の投資申請を受理していると報じられています。更に半導体分野には300億円の補助金を投入する計画を立てました。
日本の半導体産業が衰退した原因
かつて日本は半導体大国でした。1988年の日本の半導体シェアは50.3%。アメリカの36.8%を大きくリード。NEC、東芝、日立、富士通、三菱などが開発力を高めていた時期です。
しかし、2019年の日本のシェアはわずか10.0%。アメリカ(50.7%)に大きく水をあけられてしまいました。半導体の売上ランキングで10位以内に入っているのは、東芝の半導体事業をスピンアウトして誕生したキオクシア1社のみです。
競争力を失った一番の要因は、1986年9月に締結された「日米半導体協定」。
アメリカは日本の半導体がアメリカ市場を席巻。防衛産業の基礎を脅かしているとし、日本は外国産の半導体のシェアを20%に引き上げるという不本意な”目標”を設定されます。
日本の産業界は外国製の半導体を受け入れざるを得ず、韓国のサムスン電子が力をつけました。
アメリカは2021年11月に中国のファーウェイの製品を市場から排除しました。このときも「安全保障上の脅威」という言葉が使われています。
政府の働きかけによって産業の競争力を奪うやり方は、今も昔も変わっていません。
製造工程
半導体の製造工程は大きく3つに別れています。
・設計
・前工程
・後工程
設計
半導体のウェハ表面に形成される配線は極めて細かく、直接配置することができません。フォトマスクと呼ばれる原版にパターンを描き、転写して回路を形成しています。
半導体の設計分野においては、ファブレスと呼ばれる設計専門の会社が多くあります。イギリスのARMホールディングス、アメリカのNVIDIAが有名。ARMはソフトバンクグループが買収し、上場を目指していると言われています。
前工程
シリコンウェア表面上に、トランジスタなどを含む電子回路を高集積して形成する工程。回路を形成するためには、成膜、パターン転写、エッチングという3ステップを踏むことが知られています。
半導体製造の技術力では世界トップと言われる台湾のTSMCが、熊本県に前工程を担う工場を建設する計画が産業界を驚かせました。
日本は後工程に強く、高い技術力が要求される前工程のノウハウに欠けていると言われています。「工場を作るだけなのに騒ぎすぎ」という印象を受けるかもしれませんが、世界屈指の半導体メーカーによる最先端技術を盛り込んだ製造工場を誘致したインパクトは、計り知れないものがあります。
後工程
ウェアから半導体を切り出し、固定・封入する工程です。日本の企業の多くは、半導体の検査技術や検査装置のシェアが高いことで有名。アドバンテストはメモリ・テスタの分野で50%以上のシェアを握っています。
半導体産業を支える日本の主力銘柄
ルネサスエレクトロニクス
三菱電機と日立製作所から分社化したルネサステクノロジと、NECから分社化したNECエレクトロニクスが経営統合して2010年4月に誕生。2021年の半導体企業売上高ランキング15位のメーカーです。
2000年代後半から恒常的な赤字が続いており、日本の政府系投資ファンド産業革新機構が出資して立て直しを図りました。2014年に黒字化。2021年12月期の売上高は9,944億円、営業利益は1,836億円でした。営業利益率は18.4%と高い水準を維持しています。
信越化学工業
日本国内において最大の時価総額と営業利益を誇る化学メーカー。日経平均株価を支えている銘柄の一つと言って良く、シリコンウェハの世界トップ企業です。
2022年3月期の売上高は前期比38.6%増の2兆744億円、営業利益は同72.4%増の6,763億円という大幅増収増益を達成しました。営業利益率は32.6%。産業界のトップランナーの名に相応しく、競合の三菱ケミカルグループの営業利益率1.5%を大きく引き離しています。
SUMCO
三菱・住友系の半導体用シリコンウェハメーカー。世界シェアの30%弱を握っていると言われています。
2021年12月期の売上高は前期比15.2%増の3,356億円、営業利益は同36.0%増の515億円でした。2020年12月は新型コロナウイルス感染拡大で需要が減退。減収減益となりましたが、稼ぐ力を取り戻しました。
ソニー
ソニーが強みを持つのはイメージ半導体です。スマートフォンやデジタルカメラに欠かせないイメージセンサーの開発、製造を行っています。
2022年3月期半導体事業の売上高は1兆764億円。会社全体の10.7%を占めています。営業利益率が14.5%と、ゲーム事業よりも高いことが特徴です。
イメージセンサーのシェアは2022年の予想が49%。2025年に60%の獲得を目標に設定しました。TSMCの工場への出資を決めており、技術力・生産力を高めようとしています。
注目の半導体銘柄
レーザーテック
半導体のマスク欠陥検査装置を主軸とし、半導体関連装置の製造販売を行っています。
2016年は300~500円だった株価が、2021年に36,090円の高値をつけ、株価が10倍に高騰する”テンバガー”どころか、100倍以上に跳ね上がった銘柄として有名。投資家に夢を与えました。
株価が急騰した理由は業績が良いため。詳細は後述します。
アドバンテスト
半導体デバイスの測定器などを開発、販売するメーカーです。メモリ・テスタの分野で世界1位。日経平均株価を構成する銘柄の1つでもあります。
2022年3月期の売上高は前期比33.3%増の4,169億円、営業利益は62.2%増の1,147億円でした。アドバンテストはコロナ禍の2021年3月期も増収増益。逆境をものともせずに堅調に成長している企業です。
JSR
もともとは、合成ゴムの国産化を目指して政府と民間企業の共同出資によって誕生した企業です。1979年に半導体にも使われるフォトレジストの販売を開始。情報電子材料の開発に注力し、収益力を高めました。
高性能なフォトレジストを取り揃えており、シェアはトップクラスと言われています。半導体材料の製造などを行うデジタルソリューション事業の売上高は、全体のおよそ半分を占めています。
トリケミカル研究所
半導体用高純度化学材料の研究開発、製造を行う企業です。扱う材料はSi 半導体、太陽電池、光ファイバー、コーティングなど多岐に渡り、主力の Si 半導体向けが売上高の約9割を占めています。
2022年1月期の売上高は前期比18.1%増の115億7,400万円、営業利益は同10.6%増の29億7,600万円。9期連続で増収増益を続けている成長力の高い企業です。
レーザーテックに注目
2009年ごろから半導体のウェハ検査を事業として本格化しました。
業績を大きく押し上げたのが「EUVマスク関連検査装置」です。2017年にレーザーテックが世界で初めて開発・販売した製品。フォトマスクの材料であるマスクブランクス内部にある微小な欠陥を検出する装置です。
マスクブランクスは低膨張ガラス基板の表面に複数の膜を積み上げたフォトマスクの原版。信越化学工業とHOYAがシェアを独占しています。半導体デバイスを製造する元となっており、微細な欠陥が性能に大きく影響します。
レーザーテックはEUVマスクブランクスの欠陥管理と歩留まりの向上に貢献する装置を世界で初めて開発し、シェアを100%獲得しました。
レーザーテックの業績は、「EUVマスク関連検査装置」の販売を開始した2018年6月期から上昇傾向にあるのがわかります。
※決算説明資料より
https://ssl4.eir-parts.net/doc/6920/ir_material_for_fiscal_ym/104516/00.pdf
半導体産業は技術革新を繰り返しています。レーザーテックのように新たな装置が産業の発展と、業績の押し上げに大きく貢献。半導体関連のニュースには注目が集まっており、第2のレーザーテックが出てこないか、投資家が目を光らせています。
これからも目が離せない半導体銘柄
投資ファンド、ベイン・キャピタル傘下にあるキオクシアは、2021年8月にアメリカのウエスタンデジタルが合併に向けて交渉中だとウォールストリート・ジャーナルが報じました。
しかし、キオクシアはもともと東芝のメモリ事業であり、防衛機器と繋がりがないわけではありません。安全保障の観点からも好ましいものとは言えないとの意見もあります。
もともと、キオクシアは2021年9月に上場する方針でした。新型コロナウイルス感染拡大によるビジネス環境の急変で、取りやめになった過去があります。
日本の半導体メーカーを巡って様々な話が出るのも、ひとえに半導体産業が複雑かつ国家戦略として位置づけられているため。あらゆる産業の中で最も注目度の高い分野と言えます。