【銘柄研究】「にじさんじ」を展開するANYCOLORの業績を解説、株価が注目される理由
Aventure編集部
VTuber「にじさんじ」を展開するANYCOLORが2022年6月に新規上場し、一時株価が公募価格の6倍となる9,200円をつけました。2018年4月に上場したAIを開発するHEROZが公募価格の11倍をつけて話題になりましたが、VTuberという日本独自の産業でこれほど話題を集めたのは異例です。
ANYCOLORは、なぜこれほどまでに注目されているのでしょうか?事業内容と業績を詳しく解説しながら、その理由を解説します。
VTuberとYouTuberの違い
「VTuber」は「バーチャルYouTuber」の略語。2Dまたは3Dのアバターを使い、動画を投稿したりライブ配信をしている人を指します。
2016年12月に活動を開始したキズナアイが先駆けと言われており、2017年に一般認知を獲得します。
ヒトのアバター化は、かつて専用スタジオでモーションキャプチャーを使うなど、高額な機材や高い技術力が必要でした。現在はバーチャルライブ配信アプリ「REALITY」などで、スマートフォン1台あれば誰でもVTuberになれます。
活動の内容自体はYouTuberと同じ。視聴者の興味を引く動画を投稿してファンを獲得し、広告や企業案件の獲得、投げ銭などで収益を得ます。
YouTuberをマネジメントする上場企業がUUUM。VTuberのANYCOLORと、YouTuberのUUUMは利益率に雲泥の差がありますが、その違いは事業内容で解説します。
ANYCOLORの事業内容
人気VTuber「にじさんじ」が事業の中心。メンバーは上場時点で150名所属しており、英語圏や中国への進出も果たしています。
事業の概観
※新規上場目論見書より
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000006da6d-att/06ANYCOLOR-1s.pdf
ANYCOLORはVTuberを抱えるマネジメントだけをしているわけではありません。
ライブイベントの開催やグッズ、デジタルコンテンツの販売、企業案件の獲得なども行っています。
動画(ライブストリーミング事業)は、Super Chat、Google AdSense、YouTubeメンバーシップの3つで収益を構成。投げ銭、広告などのフロー収入と、月額料金でチャンネルのメンバーとなるストック収入の2つの要素が、成長性と安定性を支えています。
VTuberはYouTuberよりも熱量の高いファンが多いと言われています。課金や投げ銭へのハードルが低いのです。ANYCOLORは”勝ちやすい領域”でビジネスを展開しているといえるでしょう。
UUUMとの違い
ANYCOLORとUUUMの一番の違いは、動画への依存度。ANYCOLORはライブストリーミング事業が売上高全体の2割程度に留まっています。
※2022年4月期決算説明資料より
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5032/tdnet/2143232/00.pdf
売上高の4~5割を占めているのが、グッズやデジタルコンテンツを販売するコマース事業です。ANYCOLORの強みはここに集約されています。
UUUMはYouTuberの動画による売上高が5割を超えています。
UUUMの2022年5月期の営業利益は4.1%、ANYCOLORの2022年4月期の営業利益は29.6%。収益性に大きな差が生じています。
動画広告や投げ銭がメインとなっているUUUMは、クリエイターと呼ばれるYouTuberへの支払い額が必然的に多くなり、利益が圧迫されます。
ANYCOLORは利益率が高い商品を扱うECが主力であり、原価率を抑えられるのです。UUUMのPERは31.8倍、ANYCOLORは43.7倍。成長性への期待感から2社に大きな差が生じているのでしょう。
最大の特徴
有価証券報告書の以下の文章に、ANYCOLORの強みがよく表れています。
『当社ではVTuberのイラスト、キャラクターを会社がデザイン・設定し、VTuberのIPを会社が保有しております。会社がIPを保有することで、IPを活用したコマース領域やプロモーション領域への展開のしやすさや、ライバーの高い活動継続率などといった安定的な事業体制につながっております。』
VTuberの開発は会社が行っており、知的財産権はANYCOLORが所有しているのです。IPを保有していることが、キャラクターグッズやデジタルコンテンツの販売に繋がり、企業案件においても利益配分の面で有利に立てます。
また、「にじさんじ」に登録されたVTuberは、別のマネジメント会社に移籍して活動することができません。キャラクターの権利はANYCOLORが持っているからです。
UUUMは2020年に「木下ゆうか」や「すしらーめんりく」、「関根理沙」といった有名YouTuber20名ほどの離脱を引き起こしました。大物YouTuberの離反のきっかけは、UUUMの高い手数料だったと言われています。
つまり、名のあるYouTuberにしてみればUUUMは中抜きしているという意識があり、それが袂を分かつことに繋がったのです。
ANYCOLORは所属するVTuberに楔を打ち込んでいます。VTuberという一時の流行に乗っているといるのではなく、事業構造をよく考え抜いている様子が見て取れます。
ANYCOLORの業績推移
2023年4月期の業績は幅を持たせて予想をしています。上限で着地をすると、売上高は前期比48.3%増の210億円、営業利益は55.3%増の65億1,000万円、経常利益は56.2%増の64億8,000万円です。
※決算短信より
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5032/tdnet/2143230/00.pdf
2021年4月期から利益率を高め続けるという離れ業を、易々とやってのけています。
2022年3月期は前期と比較してVTuberの数を109人増やしました。YouTubeの再生回数は累計で5億7,100万時間。前年同期比で15.1%も増加しています。YouTuberになりたいと考えている人は年々増えています。
「にじさんじ」というブランドを確立したANYCOLORには希望者が集まり、VTuberの数を増やす。ファンが集まり、動画の再生回数が膨らむ。広告、投げ銭と物販が好調になる、というサイクルを回していることがわかります。
物販においては、VTuberの衣装や装飾品をグッズ化する「そのまんまグッズ」の販売を開始。強みであるIPをフル活用した事業展開を行っています。こうしたグッズが更なる利益率の向上に寄与することになります。
ANYCOLORの株価推移
2022年7月29日の株価終値は6,140円。6月16日に一時9,200円をつけたことを考えると、幾分落ち着いています。しかし、公開価格が1,530円だったことを考えると、まだまだ買いが先行しています。
ANYCOLORの時価総額は2022年7月29日時点で1,842億円。グロース市場ではビジョナルに次いで第2位につけています。freeeの1,814億円を抜き去りました。
今後の成長領域はどこにあるのか
ANYCOLORにはまだまだ成長領域が残されています。メタバースと海外展開です。
メタバース
メタバースはゲームばかりが注目されていますが、VTuberも見逃せません。VTuberはすでにアバターが確立されており、現実とメタバース空間の垣根がないためです。ライブイベントにおいては、最も移行しやすい分野。
しかも、熱狂的なファンを抱えているために集客力があります。ANYCOLORは2021年8月に「にじさんじ甲子園」、2021年の年末年始に「NJU歌謡祭」を開催しています。
メタバース空間で大規模なイベントを仕掛けようとしている会社は多く、ANYCOLORは独自に育てたイベントでコラボレーションができるかもしれません。メタバース空間での企業案件が獲得できれば、新たな収益が確保できるだけでなく、「にじさんじ」の認知度拡大にも一役買います。
海外展開
「にじさんじ」の英語圏での再生時間は、2022年4月期第4四半期において3,300万再生を獲得しています。前年同期間はわずか200万時間ほど。1年で10倍以上伸びています。
海外VTuberの活躍にも期待できます。
ANYCOLORは成長性の高い会社の一つ
ANYCOLORは、メルカリなきグロース市場に姿を現した希望の星です。強力な競合他社が存在しないブルーオーシャン戦略、熱狂的なファンを抱える成長期待、IPを会社が保有する欠陥のないビジネスモデル、それらに支えられた高い利益率と成長力。スタートアップのあるべき姿を体現していると言えます。
市場は、VTuberという新しいものの登場を好奇の目で見ているわけではありません。株価の急騰には理由があります。
IPO銘柄の何に注目するべきなのか。事業の独自性はどこにあるのか。成長性を支えている要素は何なのか。ANYCOLORの上場はその答えを教えてくれる好例となりました。