観光需要回復でホテル銘柄上昇に期待がかかる!おすすめの銘柄は?
Aventure編集部
2021年9月ビル・ゲイツ氏が、22億ドルでフォーシーズンズホテルの経営権を取得したことが世間を驚かせました。フォーシーズンズホテルといえば、国際的なホテルチェーンでラグジュアリーホテルを展開することで有名な会社です。
ビル・ゲイツ氏の買収は、今後明らかに観光需要が回復することを見越したものであり、コロナ禍で価値が下がった株式を仕入れ、業績回復で株価が上昇したタイミングで売却を計画するもの。投資手法の王道です。
日本でも観光需要の回復、盛り上がりを期待してホテル銘柄に注目が集まってきました。この記事では、ホテル産業を取り巻く状況やビジネスモデルの解説とともに、おすすめ銘柄を紹介します。
ホテルを取り巻く環境はどのように変化したか?
新型コロナウイルス感染拡大は、日本の観光業とホテルの客室稼働率においてどのような影響を与えたのでしょうか?また、観光業は今後の盛り上がりに期待できるのでしょうか?
客室稼働率の推移
観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、2022年4月の宿泊施設全体の客室稼働率は31.7%。2019年4月と比較して33.3%のマイナス。2022年5月の稼働率は27.0%で、2019年比36.2%のマイナスとなる見込みです。未だコロナ前の水準を回復していないのが実情です。
ただし、2021年と比較すると4月は15.2%、5月は13.8%のプラスを見込んでおり、着実に回復へと向かっています。
■施設タイプ別客室稼働率の推移
※観光庁「宿泊旅行統計調査」より
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001413643.pdf
ホテルのタイプ別に見ると、ビジネスホテルの回復が早くなっています。コロナ前はシティホテルの稼働率が高まっていましたが、現在は全体の稼働率を下回って苦戦しています。
シティホテルの回復が遅れている主要因は、外国人観光客が消失したため。コロナ前、インバウンドはホテルの稼働率を下支えしていました。
■延べ宿泊者数の推移
※観光庁「宿泊旅行統計調査」より
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001413643.pdf
政府は2022年6月に外国人観光客の受け入れを開始しました。7月から流入が本格化すると見られています。インバウンドが再び盛り上がることにより、シティホテルを中心に稼働率を押し上げると期待されています。
日本の国策として観光業が注目されている
2006年12月に観光立国推進基本法が成立し、2007年1月に施行されています。
この法律は観光を21世紀の日本の重要な政策として明確に位置づけたもの。観光旅行の促進に必要な環境の整備を講ずるとしています。
■観光立国に向けたこれまでの取り組みと成果
※国土交通省「国土交通白書2020」より
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1123000.html
観光庁の発足や首都圏空港の発着枠の拡大などを行い、訪日外国人旅行者数と旅行消費額は急速に増加しました。2019年は消費額が4兆8,000万円に達しています。
円安が観光業に追い風をもたらす
政策金利を引き上げたアメリカと金融緩和継続を決定した日本。日米の金利差は空前の円安・ドル高を引き起こしました。
黒田東彦日本銀行総裁は、異次元緩和という大胆な緩和策を打ち出した人として知られています。物価上昇率2%を目標とし、金融緩和継続の意義を唱えてきました。インフレに対して寛容であり、引き締めに転じる可能性は今のところ低いと見られています。
円安は海外観光客を受け入れる日本にとって、大きなメリットになります。日本の製造業は民主党が政権を握っていた超円高時代を経て、生産拠点を海外に移しました。そのため、円安メリットの恩恵を受けにくくなったと言われています。
外国人観光客が直接流入する観光業は、円安メリットを享受し続けられる業種です。円安が続く限り、外貨を稼ぎやすいのです。
注目のテーマ「カジノリゾート計画」
将来的に日本の観光の目玉の一つとされているのがIR。統合型リゾート施設です。和歌山市、横浜市、千葉市、大阪市などが候補地として手を上げています。
その中で本命の1つとされているのが大阪市。大阪市は2022年4月に統合型リゾート施設誘致に向けた「区域整備計画」を申請し、国に受理されています。開業3年後の売上高を5,200億円、純利益を750億円と試算。国内に巨大なリゾートが誕生するかもしれません。
シンガポールは統合型カジノリゾートを導入し、マリーナ・ベイ・サンズなどのリゾート施設を建設しました。その効果により、観光客は970万人から1,740万人へと1.8倍に増加したと言われています。
ホテルのビジネスモデルとは
ホテルを運営して宿泊客から宿泊料をとるのが、このビジネスの基本です。しかし、時代を重ねるに従って運営方法が変化してきました。会社によって経営の方法は異なります。
ビジネス構造を理解し、銘柄選定をする際の材料にしてください。
経営と所有の分離
ホテルは経営と所有の分離が進んだ分野です。経営と所有の分離とは、スタッフを抱えてホテルを運営する経営者と、ホテルの建物を所有する所有者が分かれることを指します。
かつて、日本ではホテルの所有者と運営者は同一の会社というのが当たり前でした。典型的な会社が、プリンスホテルを展開する西武グループ。土地開発や建設会社を傘下に持つ西武グループは、土地の買収からホテルの建設、運営までを自前で行った方が効率的でした。
しかし、緊急事態宣言の発令により、商環境は一変します。旗艦ホテルの「ザ・プリンス パークタワー東京」や「苗場プリンスホテル」などをシンガポール政府系ファンドGICに売却します。売却後も運営はプリンスホテルが行う予定です。
売却後、プリンスホテルはGICに家賃を支払うことになります。ホテルの償却費がどの程度あったのかにもよりますが、営業利益率は低下するかもしれません。しかし、物件を売却することにより、プリンスホテルの自己資本に厚みを出すことができ、財務状況を改善できます。
帝国ホテルのような老舗ホテルは、当然土地や物件を所有しています。その一方で、新興系ビジネスホテル運営会社などは、物件を所有していないパターンがほとんどです。運営に特化した会社は、出店スピードを上げられるというメリットもあります。旅館で有名な星野リゾートは運営特化型の会社です。
宿泊・宴会・レストランの3本柱
シティホテルやリゾートホテルには、3つの大きな収益源があります。客室を稼働させることで稼ぐ宿泊部門、企業宴会や結婚式を受注して稼ぐ宴会部門、レストランに集客して稼ぐレストラン部門です。
帝国ホテルのような均整のとれたホテルの場合、(平常時の)各部門の比率は同程度のものとなり、分散されています。「キンプトン新宿東京」を運営するツカダ・グローバルホールディングは、もともと結婚式場専門の運営会社でした。そのため、婚礼の比率が高いのが特徴です。
運営会社の特性により、ホテルの稼ぎ方にも違いがあります。
シティホテルとビジネスホテルの違い
ビジネスホテルは、ホテルの運営効率を極限まで高めた形態です。宿泊料金を5千円~1万円程度に抑えるなど低額で提供するため、スタッフの人数を絞っています。宴会場を排し、レストランもテナントとして誘致しているホテルがほとんどです。
ビジネスホテルは駅前などの集客しやすい立地に作る必要があり、家賃が高額。そのため、高稼働を維持しなければ黒字化しにくいビジネスモデルです。損益分岐点が高い傾向にありますが、分岐点を超えると高い収益が得られます。
シティホテルは婚礼や企業宴会などの利益率の高い顧客を獲得できるため、大勢の従業員の雇用を維持する体力を備えるのが普通。しかし、シティホテルは顧客満足度を高めるために、客室や宴会場、レストラン、婚礼会場などに巨額の投資をし続ける傾向があり、利益率が低い傾向にあります。
おすすめのホテル銘柄
ホテル銘柄にはどのようなものがあるでしょうか。おすすめの銘柄を紹介します。
帝国ホテル
日本を代表するホテルの1つです。2022年3月期に78億8,600万円の純損失(前年同期は143億6,300万円の純損失)を計上しました。しかし、自己資本比率は64.2%と高水準を維持。
帝国ホテルは財務体質が極めて健全であり、需要回復を待つ体力を十分に持っていると考えられます。また、日比谷の超一級の土地と建物を所有しており、経営難に陥ったとしても土地と物件の売却によって財務の健全化を図る資産を持っています。
東急不動産ホールディングス
子会社である東急リゾーツ&ステイが、「東急ステイ」の運営を行うほか、リゾートホテルやゴルフ場、スキー場の運営受託も行っています。「ホテルニセコアルペン」や「蓼科東急ホテル」などのリゾートホテルのほか、「東急ハーヴェストクラブ」ブランドの会員制リゾートホテルも運営。
また、東急不動産ホールディングスは、住宅販売の東急ホームズ、別荘販売の東急リゾート、フィットネスクラブ「東急スポーツオアシス」を運営する東急スポーツオアシスなど、数々の不動産業を傘下に収めています。
事業ポートフォリオが強固であり、分散投資の1つとなる銘柄です。
オリックス
オリックスは「クロスホテル」や「JALシティ」などの運営を行っています。
この会社に期待したいのは、統合型リゾート施設の誘致。大阪府が計画するカジノリゾートは、アメリカの巨大カジノ施設運営会社MGMリゾーツと、オリックスが40%ずつ出資をすることが決まっています。
もし、大阪府にカジノリゾート誘致が決まれば、オリックスはカジノ銘柄として大注目を浴びる可能性があります。
個人でホテルが所有できる?ホテルリートとは
ホテルは経営と所有が進んでいる分野。間接的にホテルを所有できるのが、ホテルリートです。
リートとは?
リートとは、不動産投資信託証券のことです。投資家から集めた資金で物件を購入し、家賃や物件の売買によって生じた利益を投資家に還元するもの。不動産が生み出すキャッシュフローを流動化した投資信託の仲間です。
リートは株式と同様に市場で購入できます。リートは利回りが高いことが特徴で、5.0%を超えるものもあります。1部上場企業の配当利回りは2.0%程度が普通です。
ホテルリートの特徴
ホテルリートは、シティ、ビジネス、リゾートに分散して投資するタイプがほとんどです。
新型コロナウイルス感染拡大前はインバウンドが注目されており、市場の期待が高い分野でした。緊急事態宣言が発令された2020年から2021年にかけては取引高が急速に縮小しましたが、2022年に入って持ち直しています。
おすすめのホテルリート
ジャパン・ホテル・リート
シティホテルを中心に物件を保有。「ヒルトン東京お台場」「ヒルトン名古屋」「ヒルトンホテル東京ベイ」「神戸メリケンパークオリエンタルホテル」などを保有。「ドーミーイン」や「コンフォートホテル」などのビジネスホテルも持っています。
シティホテルは稼働率の戻りが遅く、苦戦している分野です。しかし、インバウンドの回復によって収益性がいっきに高まる潜在力を持っています。
星野リゾート・リート
星野リゾートが運営する旅館「界」などの物件を保有しています。運営会社である星野リゾートは上場していませんが、物件を保有するリートは上場させました。物件を買い取る資金を市場から調達するためです。
星野リゾートは旅館の再生に強みを持っています。コロナで経営を断念する旅館は今後増えることが予想され、星野リゾートは優良物件を手にできる可能性があります。