芸術品のようなZEMAITIS(ゼマイティス)のギターを解説
Aventure編集部
ZEMAITIS(ゼマイティス)は1950年代にイギリスで誕生したギターメーカーです。ローリング・ストーンズのギタリスト、ロン・ウッドが使用したことで有名なディスクフロントを始め、彫金が施されたメタルプレートや美しい貝殻が配されたボディトップが特徴的です。この記事ではゼマイティス誕生の歴史から主要モデルの特徴まで、ゼマイティスの魅力を余すところなく紹介します。
ゼマイティスの歴史
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まずはゼマイティスというメーカーがどのような背景で誕生しどのように成長したのか、そして現在の神田商会に引き継がれるまでの歴史を紹介していきます。
1950年半ば〜1960年代:ゼマイティスの誕生からギターメーカーとしての成長
ゼマイティスは家具職人であったトニー・ゼマイティスがイギリスで立ち上げたギターメーカーです。ギタリストでもあったトニーが、1950年代なかばに家具作りの技術を活かして自分用のクラシックギターを作ったのが始まりと言われています。トニーがギター作りを始めてから2000年に引退を決意するまで、ゼマイティスのすべてのギターはトニーの手によって作られていました。
トニーは、初めてのギターを作ったあとも独学でギター製作を続けました。ギターの仕様において様々な試行錯誤を重ね、1960年代に入ると自身で製作したアコースティックギターを楽器店で販売できるようになり、イギリスのギタリストの支持を集めました。
1970年代:エレキギターの製作スタート
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現在ゼマイティスの代名詞となっているエレキギターは、1970年代に入ってから本格的に製作されるようになります。プロトタイプと呼ばれる試作品の制作を経て、一号機として誕生したのがグラウンドホッグというバンドのギタリストであるトニー・マクフィーのために作られたメタルフロントです。美しい彫金が施されたメタルプレートをボディトップに備え、その美しさは注目を集めました。同時にメタルプレートによるノイズの低減効果もあり、その澄んだサウンドはのちに多くのギタリストに支持されることとなります。
同じくゼマイティスのアイコンモデルとして愛されているパールフロントが製作されたのもこの頃でした。ボディトップには美しい貝殻が敷き詰められており、ステージでライトを浴びたときの輝きは他のギターにはないものでした。
1980年代:ギタリストの憧れの的に
1980年代に入るとゼマイティスはギター界での確固たる地位を確立し、世界中のギタリストの憧れのギターとなります。このころにはゼマイティスのコレクターも登場し、かつて製作されたモデルがヴィンテージとして高い価値を持つようになり始めました。現在でもトニーが生前に製作したギターは「ヴィンテージゼマイティス」と呼ばれて非常に高い価格で取引されています。
2000年代:トニーの遺志が神田商会へ引き継がれる
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トニーは2000年に引退を決意しました。それまでゼマイティスのギターはすべてトニーが製作していたので、彼の引退はゼマイティスの終焉を意味していました。しかし「この素晴らしいギターを後世に伝えたい」と、その後のゼマイティスを引き継いだのは日本の神田商会でした。
もちろん、トニーが1人で作り上げたゼマイティスを引き継ぐのは簡単なことではありませんでした。神田商会はトニーに会い、高い品質を保ち熱意を持ってゼマイティスのギターを製作したいと語り、神田商会へゼマイティスを引き継ぐ話し合いが始まったそうです。
しかし、その打ち合わせのさなかであった2002年、トニーはこの世を去ってしまいます。神田商会はこれまでにトニーが製作した世界中にあるギターを何本も手にとって調べ、ゼマイティスのギターを精巧に復刻しました。それをトニーの遺族へ見てもらった結果、神田商会は正式にゼマイティスを引き継ぐことになりました。その後ゼマイティス立ち上げ当初から彫金を担当していたダニー・オブライエンも神田商会に協力することが決まり、正式にゼマイティスの継承がなされました。
芸術品と呼べるほどの美しいギター
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ゼマイティスは芸術品と言えるほどに美しいギターをたくさん世に送り出してきました。
最も有名なのは、ボディトップにメタルプレートが配されたディスクフロントやメタルフロントといったモデルでしょう。ディスクディスクフロントはボディ中央に大きな円盤状のメタルプレートが、メタルフロントはボディトップを完全に覆うようにメタルプレートが配されています。メタルプレートには見事な彫金が施されており、唯一無二の存在感を放っています。彫金はもともとショットガンメーカーのマスターエングレーバーとして活躍していたダニー・オブライエンが担当していました。
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もう一つのゼマイティスを代表するモデルが、ボディトップに貝殻を敷き詰めたパールフロントと呼ばれるモデルです。ボディトップに白蝶貝を1枚ずつ手作業で敷き詰めて磨き上げています。光を反射して輝く様子はステージ映えがよく、「ゼマイティスは芸術品のようなギター」だと世界中に知らしめるキッカケになったギターでした。
その他にも、木製のボディトップに彫刻を施したウッドリーフと呼ばれるモデルもありました。ゼマイティスでは、どのような素材でギターを製作したとしても他に類を見ない唯一無二の美しさを持つギターを製作してきました。
グレードの紹介
神田商会に引き継がれてからのゼマイティスでは、ギターに使われる材料や工程、生産国によって複数のグレードが用意されています。最上級グレードはトニーが製作したギターのクオリティに勝るとも劣らないクオリティを実現し、エントリーグレードでは若い世代のギタリストでも気軽にゼマイティスクオリティを楽しめるように価格とクオリティのバランスを実現しています。
まずは以下に各グレードの違いをまとめました。
カスタムショップ | アンタナス | カシミア | ザ・ポートレイト | Gシリーズ | Zシリーズ | |
型番 | CS / S | A | C | – | MFG / DFGなど | ZVWなど |
製造工場 | 岐阜県可児市専用工場 | 国内工場 | 韓国工場 | 国内工場 | 国内工場 | 日本or韓国 |
メタルプレート | ジュラルミン | アルミ | アルミ | – | ジュラルミン | – |
ボディ / ネック | アフリカンマホガニー | アフリカンマホガニー | ナトー | アフリカンマホガニー | アフリカンマホガニー | アッシュ / エボニー / マホガニーほか |
ブリッジ / テールピース | ジュラルミン | ジュラルミン | ジュラルミン | ジュラルミン | ジュラルミン | – |
ここからはそれぞれのグレードの特徴を紹介していきます。
カスタムショップ
長年ゼマイティスの最上級グレードとして君臨してきたのがカスタムショップです。カスタムショップに分類されるギターは岐阜県可児市にあるゼマイティス専用工場で一本ずつ製作されています。伝統的なデザインを踏襲しながら最新の加工技術も積極的に取り入れ、メーカーのフラッグシップシリーズとして高い基準で選び抜かれた材料が使用されています。
さらにカスタムショップの中には、より上質な木材を使用し熟練したギタービルダーが製作した「トニーズコレクション」と呼ばれるシリーズが存在しています。トニーズコレクションは、神田商会に引き継がれてから製作されたギターの中で、トニーが製作したギターに最も近いクオリティを誇るとマニアの間で高い人気を誇るモデルです。しかし、近年ではなかなか手に入らない貴重なモデルでもあります。
アンタナス
岐阜県にある神田商会のゼマイティス専用工場ではなく、国内の提携工場で製作されているのが、ゼマイティスのミドルクラスとして展開されているアンタナスシリーズです。
メタルフロントやディスクフロントに使用されるメタルプレートは上位モデルに採用されているジュラルミンではなくアルミ製ですが、木材部分は上位モデルと同じくアフリカンマホガニーが使用されています。ミドルクラスのモデルとはいえ中古市場でも20万円から40万円、状態によってはそれ以上の価格で取引されています。
カシミア
カシミアシリーズは、ゼマイティスの伝統的なスタイルのモデルを低価格で販売することを目指して誕生しました。とはいえ、ブリッジやテールピースには上位モデルと同じくジュラルミンを使用しており、ゼマイティスサウンドの再現に努めています。
韓国工場で製作されていますが、神田商会のスタッフが現地で検品をおこなうことに加え、出荷前に岐阜の工場で検品することで高い製品クオリティを保っています。
ザ・ポートレイト
2021年にゼマイティスの最上級グレードとして新しく発表されたのがザ・ポートレイトシリーズです。2021年12月時点ではパールフロントモデルが1つだけ発表されています。
伝統的なパールフロントのボディトップを継承しつつも、音量を絞ってもトーンが変わらないというトレブル・ブリード・サーキットやゴトー製のロッキング・チューナーを採用してチューニングの安定性を図るなど、伝統と先進性を融合させています。
今後ゼマイティスのフラッグシップシリーズとしてさらに他のモデルが展開されていくのか楽しみです。
Gシリーズ
Gシリーズは2020年に発表されたシリーズで、ゼマイティスUSAのプロデュースのもと日本国内の工場で製作されているシリーズです。
伝統的なメタルフロントやディスクフロントに加え、新しいVシェイプを採用したメタルフロントもラインナップされています。
Zシリーズ
これまでのゼマイティスの伝統を引き継ぎつつ、「より自由な発想」をテーマに新たなモデルの製造に挑戦しているのがZシリーズです。
新しいVシェイプのモデルやレスポールシェイプを採用したギターがラインナップされています。メタルフロントやパールフロントといった仕様は採用されず、木材のボディトップを採用したよりシンプルなゼマイティスです。
定番モデルの紹介
ここからはゼマイティスの定番モデルをいくつか紹介していきます。それぞれのボディ形状・トップ仕上げの特徴やピックアップの構成、音色についても紹介します。
メタルフロント
ゼマイティスを代表するモデルの一つで、ボディトップを大きなメタルプレートで覆っているのが特徴です。ボディシェイプには、独自のレスポールシェイプとVシェイプを採用したモデルが存在しています。
特徴的なメタルプレートには目を惹くような素晴らしい彫金が施されており、ゼマイティスのギターのアイデンティティの一つとなっています。しかし、実はメタルプレートは本来デザイン性を高めるためではなく、エレキギターをアンプに接続した際に発生するハムノイズを低減させるために取り入れられた仕様でした。
ハムバッカーピックアップが2基搭載されており、コントロール系にはフロント・リアそれぞれのボリュームとトーンが1つずつ設置されているスタンダードなレスポールをイメージした構成を採用しています。
ボディトップにメタルプレートを配したことで歪みサウンドとの相性がいいサウンドキャラクターが特徴的で、多くのロックギタリストに愛用されているギターです。
ディスクフロント
テレキャスターシェイプを変形させたような独特のボディシェイプを採用し、ボディトップの中央に大きな円盤型のメタルプレートを配したのがディスクフロントです。このモデルもゼマイティスを代表するモデルの一つで、かつてローリング・ストーンズのロン・ウッドが使用したことでも有名です。
ピックアップには、ハムバッカーが3基搭載されており、フロント・ミドル・リアそれぞれの組み合わせで幅広いサウンド作りが楽しめます。
パールフロント
パールフロントは、レスポールシェイプのボディを採用し、ボディトップには貝殻を敷き詰めたモデルです。上位モデルでは貝殻を一枚ずつ手作業で貼り付けており、まさに芸術品とも言うべき輝きを放っています。
ピックアップはメタルフロントと同じく2基のハムバッカーを搭載しています。ボディトップを硬質な貝殻で埋め尽くすことにより、木材のボディトップを持つギターよりも硬質でキレのあるサウンドキャラクターになっています。
スーペリア
ゼマイティスの代表モデルであるメタルプレートや貝殻を使ったモデルとは異なり、木材を使ったボディトップが特徴的なモデルがスーペリアです。
スーペリアの中にもボディシェイプやピックアップの仕様などが異なるモデルがいくつかありますが、現行で販売されているのは2020年に登場したSCW22です。ディスクフロントと同じボディシェイプを採用しつつも、ピックアップはハムバッカー3基から2基に変更され、円形のメタルプレートは付けられていません。これにより、より多くのユーザーにとって使いやすい仕様となりました。
すでに生産が終了されたモデルですが、カスタムショップシリーズのスーペリアモデルにCS24SU Wood Learfというモデルも存在していました。ボディトップにはメイプル材を使用し、表面にはレーザー刻印でダニー・オブライエンがデザインしたリーフ柄が施されました。メタルプレートや貝殻を使用してはいないものの、ゼマイティスらしい華やかさのあるモデルでした。
使用ギタリスト
これまでにゼマイティスのギターを愛用してきたギタリストは世界中に数多く居ます。
ギターの神様、ジミ・ヘンドリックスはトニーが製作した12弦のアコースティックギターを弾いていましたし、ジョージ・ハリスンはトニーが試作品として製作したプロトタイプと呼ばれるギターを含め複数本のコレクションを所有していたと言われています。
ゼマイティスを使用しているギタリストで最も有名なのがフェイセズのギタリストであり、のちにローリング・ストーンズで活躍するロン・ウッドでしょう。彼はフェイセズのメンバーとしてテレビ番組に出演した際にゼマイティスのギターを使用し、注目を集めました。ロン・ウッドは後にディスクフロントを愛用していたことでも有名です。
国内では布袋寅泰がゼマイティスの愛好家として知られており、『RUSSIAN ROULETTE』のMVでは通称「ゼマイティスワイルド」と呼ばれているモデルを、『サレンダー』のMVではパールフロントを演奏している姿が観られます。その他にもベースやアコースティックギターなどを複数本所有しているそうです。GLAYのHISASHIも94年製のメタルフロントを所有しており、ライブ映像などでその姿を観ることができます。
所有欲を満たしてくれるゼマイティスのギターたち
ゼマイティスは、イギリスの家具職人であるトニー・ゼマイティスが立ち上げたギターメーカーです。トニーが丹精込めて作り上げたゼマイティスのギターたちは世界中のギタリストに愛用されました。トニーが亡くなった後、ゼマイティスは日本の神田商会に引き継がれ、伝統を受け継ぎつつ新たなギターが作り続けられています。
もしゼマイティスのギターに興味が出たら、ぜひ楽器店に足を運んで実際に手にしてみましょう。