バナナのジャケット『The Velvet Underground and Nico』を紹介
Aventure編集部
The Velvet Undergroundのデビューアルバムのジャケットに描かれたバナナのイラストに見覚えがある方は多いと思います。このイラストはバンドのプロデュースをおこなったポップアートの第一人者、アンディ・ウォーホルが手掛けたことも有名です。しかし実際にこのアルバムを手に取って聴いたことがないリスナーは少なくないはず。この記事では波瀾に満ちたバンドの軌跡から『The Velvet Underground and Nico』の背景や収録曲の聴きどころまで余すことなく紹介します。
波瀾に富んだThe Velvet Undergroundの軌跡
アルバムを紹介する前に、まずはバンドについて紹介していきます。1960年代なかば、ルー・リードとジョン・ケイルの出会いによってスタートしたThe Velvet Undergroundはどのような軌跡をたどっていったのか見ていきましょう。
前期:アンディ・ウォーホルとの出会い
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The Velvet Undergroundは1964年にルー・リードとジョン・ケイルを中心にアメリカで結成されました。
結成時のメンバーはギター・ボーカルを務めたルー・リードとヴィオラを演奏するジョン・ケイルに加え、ギターにスターリング・モリソン、パーカッションにアンガス・マクリーズを迎えた4人編成です。結成直後にアンガス・マクリーズが脱退したためモーリン・タッカーがドラマーとして加入し、初期の主要メンバーがそろいました。
この頃The Velvet Undergroundはニューヨークのライブハウスで頻繁に演奏しており、そこで後に1stアルバムのプロデュースを担当するポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルと出会うのです。
後に歴史的名盤となる『The Velvet Underground and Nico』がリリースされたのは結成からわずか3年の1967年のことでした。
中期:前衛的な作風に舵を切る
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今となってはロックシーンにおける名盤として扱われている『The Velvet Underground and Nico』ですが、リリース当時はセールスに恵まれませんでした。そのこともあって、The Velvet Undergroundのメンバーはアンディ・ウォーホルのプロデュースを離れ、翌年の1968年には2ndアルバム『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』をリリースします。
アンディ・ウォーホルのプロデュースを離れたことでルー・リードを中心に自由な作品作りをおこないました。前作よりも過激な内容をテーマにしたり、ギターやベースを強く歪ませたサウンドやノイズを活用したりと、2ndアルバムは前衛的な作品に仕上がっています。
いよいよ自分たちらしい音楽作りが始まったと思われた2ndアルバムのリリース後、ルー・リードとの関係が悪化したためにジョン・ケイルが脱退します。ここまでですでに波瀾の軌跡をたどっているThe Velvet Undergroundですが、彼らにはさらなる苦難が待ち受けています。
ジョン・ケイルの脱退後、The Velvet Undergroundの後期主要メンバーとなるダグ・ユールが加入します。心機一転新たな再スタートを切り1969年に3rdアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』をリリースするも、セールスが振るわずにレコード会社との契約が打ち切られてしまうのでした。
後期:ルー・リードの脱退とダグ・ユールの奮闘
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3rdアルバムリリース後にレーベルを移籍したThe Velvet Undergroundは、4thアルバム『ローデッド』を制作します。これまでの前衛的な作品とは異なるロックンロールでポップな作品に仕上げました。
しかし、ここでまたしてもバンドに問題が発生します。1970年、アルバムリリース1ヶ月前にしてルー・リードが失踪し、そのままバンドを脱退してしまうのです。一方、これまでと方向転換した作風が功を奏し、4thアルバムはバンドのキャリア史上もっとも好セールスを記録することになりました。
その後もメンバーの加入と脱退が続き、ついに残されたメンバーはダグ・ユールのみになってしまいます。もはやバンドは空中分解している状態でしたが、レコード会社との契約でアルバムをもう1枚制作せねばなりませんでした。そのため、ダグ・ユールは1973年に最後のアルバム『スクイーズ』をなんとか完成させ、The Velvet Undergroundは活動を終えました。
解散後のThe Velvet Underground
解散後、The Velvet Undergroundとしての動きはなかったのですが、1987年にアンディ・ウォーホルが亡くなったことをきっかけに歯車が動き始めます。1988年にルー・リードとジョン・ケイルは、アンディ・ウォーホルの追悼のために楽曲を共作しました。その後2人で回ったツアーにかつてのメンバーであるスターリング・モリソンとモーリン・タッカーがサプライズで参加するなど、再結成の機運が高まります。
そして1993年、初期主要メンバーであるルー・リード、ジョン・ケイル、スターリング・モリソン、モーリン・タッカーの4人での再結成が実現しました。ヨーロッパツアーがおこなわるも、ツアー終了とともに再び活動休止、1995年にスターリング・モリソンが亡くなってしまい、The Velvet Undergroundの活動はここまでとなりました。
The Velvet Undergroundは1960年代〜70年代に現役で活動していたころにはセールスに恵まれず、あまり評価されませんでした。しかし70年代中頃には音楽シーンやリスナーがバンドの価値を再発見したことで評価され始め、90年代までの数多くのミュージシャンに大きな影響を与え、現在まで伝説のバンドとして語り継がれています。
1stアルバム『The Velvet Underground and Nico』
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ここからはThe Velvet Undergroundのデビュー作として1967年にリリースされた『The Velvet Underground and Nico』の制作の背景から収録曲の作風を紹介していきます。
制作背景とリリース直後の反応
彼らのパフォーマンスに惚れ込んだアンディ・ウォーホルは、自身が主宰を務めるイベントへの出演を依頼し、The Velvet Undergroundはそこで見事なライブを披露しました。このイベント出演をきっかけにアンディ・ウォーホルのプロデュースによって1stアルバム『The Velvet Underground and Nico』を制作することになるのです。
このときアンディ・ウォーホルの提案によって、モデルやシンガーとして活動していたニコがボーカルとして参加しました。『The Velvet Underground and Nico』の収録曲はニコとルー・リードがボーカルを分担しています。
リリースから10年近くたった1970年代後半に再評価され注目を集め、現在まで数多くのアーティストに影響を与えてきた名盤ですが、リリース当初はセールスが振るわなかったことが知られています。
作風
『The Velvet Underground and Nico』がリリースされた1967年、イギリスではThe Beatlesが『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』をリリース、アメリカではJimi Hendrixが『Are You Experienced』をリリースしていました。どちらの作品も世界中で大ヒットを記録しています。ロックシーンにおけるメインストリームとも言えるこれらの作品と比べると、『The Velvet Underground and Nico』は独特な作風だと言われていました。
というのも、The Velvet Undergroundはニューヨークパンクのルーツとされていますが、『The Velvet Underground and Nico』に収録された楽曲はパンク一辺倒ではなく、ロックンロールや民族音楽、さらにはジョン・ケイルが学んでいた現代音楽のエッセンスを取り入れていたのです。複数のジャンルをクロスオーバーさせた作風は珍しく、当時の音楽シーンやリスナーから、すぐには評価を得られませんでした。
有名なバナナのイラストが描かれたジャケット
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ニューヨークパンクの名盤である『The Velvet Underground and Nico』は、収録曲だけでなくジャケットのバナナのイラストが話題に上ることも少なくありません。ここではジャケットの基本情報と、このジャケットにまつわるエピソードを紹介します。
イラストを書いたのは誰?
『The Velvet Underground and Nico』のジャケットのイラストはプロデュースを務めたアンディ・ウォーホルが書きました。このイラストは世界で最も有名なバナナのイラストで、もしかするとアルバムは聴いたことがないけれど、ジャケットのイラストには見覚えがある方もたくさんいらっしゃるでしょう。
バナナのイラストに隠されたギミック
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アルバムジャケットにはアルバムタイトルやバンド名は一切書かれておらず、アンディ・ウォーホルのサインと「Peel Slowly and See」というメッセージが小さく書かれているのみでした。
ちなみに「Peel Slowly and See」というのは「ゆっくり剥がして見てみて」という意味で、初期LP盤のジャケットはバナナの部分がステッカーになっていて剥がせるというギミックが仕込まれていました。
バナナのイラストの使用権にまつわる訴訟
2012年、The Velvet Undergroundはアルバムジャケットに使用されたバナナのイラストの使用権をめぐり、アンディ・ウォーホル基金を相手に訴訟を起こしました。あのバナナのイラストの商標権はThe Velvet Undergroundにもあると主張したのです。
しかし、裁判でバンド側の主張が認められることはありませんでした。最終的には両者の間で和解が成立したことで決着が付いたというエピソードです。
収録曲の聴きどころ紹介
最後に『The Velvet Underground and Nico』の収録曲の中から3曲をピックアップし、制作の背景や聴きどころ、楽曲の内容を紹介していきます。
『Venus in Furs』
A面の4曲目に収録されているこの曲は、マゾッホの小説『毛皮を着たヴィーナス』にちなんで制作されており、SMをテーマとした問題作です。歌詞の中にはサディストの女性が登場し、小説にも登場するゼヴェリーンという男性の名前も登場します。
一方楽曲の雰囲気はどこか民族音楽的であり、ルー・リードの気だるいボーカルワークが際立っています。バスドラムとタンバリンのみで構成される重苦しいビートの上に、浮遊感のあるギターのフレーズとヴィオラがオリエンタルな雰囲気を醸し出しています。まるで民族音楽を聴いているかのような感覚に陥るのです。
『Heroin』
本アルバムの中でも代表曲の一つと語られることもある楽曲です。タイトルに付けられた『Heroin』というタイトルの通り、聴いているとどんどん楽曲の世界観に引き込まれて陶酔感を味わえます。
そうした感覚は自在に緩急をつけた巧みな楽曲展開に起因しています。テンポやフレーズを自由に操り、どんどんリスナーを振り回す様子は圧巻です。前半ではドローン奏法でずっと同じ音程を伸ばしていたヴィオラが、楽曲後半では荒々しく主張してくるところもこの曲の聴きどころです。
『Femme Fatale』
最後に1曲、ニコがメインボーカルを務めた楽曲をひとつ紹介します。A面の3曲目に収録されているこの曲は『宿命の女』というタイトルが付けられており、いわゆる「魔性の女」をテーマに書かれた曲です。歌詞の中ではひたすらに魔性の女がある男性を手玉に取ろうとしている様子がつづられています。
全体的に柔らかいサウンドに仕上げられた伴奏に乗せたニコの優しい歌声が印象的で、一見親しみやすい魔性の女をサウンドでも表現しているかのようです。
解散後に評価を得た名作『The Velvet Underground and Nico』
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アンディ・ウォーホルによるバナナのイラストがジャケットに描かれた名盤『The Velvet Underground and Nico』を紹介しました。当時としては前衛的であり、すぐには受け入れられなかった作品ですが、バンドが解散した1970年代中盤以降に再評価されて以降はロックシーンにおける重要な1枚として語り継がれています。
洋楽ロックに明るくないリスナーにとっては収録楽曲よりもジャケットのデザインの方がなじみがあるかもしれませんが、後世のバンドに多大な影響を与えた名盤ですのでこの機会にぜひ聴いてみてください。