The Rolling Stones『Let It Bleed』の魅力に迫る
Aventure編集部
『Let It Bleed』はThe Rolling Stonesが世に放ったアルバムの中でもひときわ高い評価を得ている作品です。この記事では、バンドの軌跡を振り返りながら、彼らの代表作である名盤『Let It Bleed』の制作秘話などを紹介し、その魅力に迫ります。
The Rolling Stonesというバンド
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The Rolling Stonesは1962年の結成以来、一度も解散や休止をすることなく活動を続けているロックバンドです。60年代のロックシーンを代表するバンドであり、同時期に活躍したビートルズやレッド・ツェッペリンらと並んで、多くのロックファンから愛されるロック界のレジェンドです。
1989年にはロックの殿堂入りを果たしており、ローリングストーン誌が選出する「最も偉大なアーティスト」ランキングでも5位に選ばれました。
メンバー遍歴
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The Rolling Stonesの現メンバーは、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロニー・ウッドの3人。いずれもボーカル、ギター、ベースなどをこなせる多才なプレイヤーです。
ライブや音源制作は上記のメンバーに加えて、サポートメンバーを迎えておこなっています。また、長いキャリアの中で同じメンバーで活動を続けている訳ではなく、何度かのメンバーチェンジを経て現在の体制になりました。
大きな存在だったブライアン・ジョーンズ
ストーンズにとって大きな転機となったのは、初期メンバーのブライアン・ジョーンズの脱退でした。ブライアンはストーンズのオリジナルメンバーであり、リードギターを担当していました。さらにバンド結成当初はリーダーとしてバンドをリードする存在でした。
そんな彼の脱退の理由は、薬物使用による疾患で音楽活動が困難になったことだとされています。バンドの中心人物であったブライアンの脱退はバンドにとって大きな事件でしたが、彼の脱退以後すぐにストーンズは黄金期を迎えるという皮肉な展開にもなりました。
ストーンズの最高傑作『Let It Bleed』
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『Let It Bleed』は1969年にリリースされたアルバムで、イギリスでは8作目、アメリカでは11作目となる作品です。制作時期にはメンバーの脱退を始めとするトラブルが相次ぎ、作品のリリースは一筋縄ではいきませんでした。しかし、完成した作品のクオリティは非常に高く、ストーンズの最高傑作と言われています。
リリース当時の評価
『Let It Bleed』は全英チャートで1位、全米チャートでも最高3位を記録します。わずか2ヶ月前にはあのビートルズの代表作『Abbey Road』がリリースされたばかりであり、全英1位の記録は快挙とも言えます。
当時の音楽雑誌での評価も非常に高く、世界的影響力を持つニュー・ミュージカル・エクスプレス誌などでは多数の称賛のコメントを交えて同作が紹介されました。
ロックを突き詰めた作品
『Let It Bleed』は、ロックバンドによる表現の臨界点を示した作品と言われています。
ストーンズはもともと、黒人音楽であったR&Bの価値と魅力を白人に伝えるというコンセプトのもと結成されたバンドでした。
そんなストーンズが最盛期を迎えていた60年代の活動の集大成としてリリースされたのが『Let It Bleed』です。伝統的なブルース・ロックという音楽の魅力と、バンド形態による音楽活動の可能性を余すところなく表現しきった作品だと評価されてます。
そのため『Let It Bleed』はストーンズの歴史だけでなく、ロックの歴史を語る上でも欠かせない作品なのです。
『Let It Bleed』制作前後の苦難
絶大な評価を受けている『Let It Bleed』ですが、制作時の状況は決して順風満帆ではありませんでした。制作からリリース直後にかけて大小さまざまな事件がストーンズに降りかかっています。
リードギタリスト不在の中でおこなわれたレコーディング
ストーンズ初期のリーダーだったブライアンが脱退したのは、まさに『Let It Bleed』の制作中のことです。制作がスタートした頃からブライアンは薬物中毒の影響もあり、奇行やバンド活動へのモチベーション低下が深刻になっていました。
彼のプレイが一切収録されていない訳ではありませんが、いずれも重要なパートは任されておらず、リードギターは全て別の人物によるプレイです。
レコーディングではブライアンの代わりにそれまでリズムギターの担当だったキースが大部分のギターフレーズを弾き、新しく加入したギタリストのミックも加わって彼の穴を埋めました。
ブライアンの死
ブライアンの脱退が表明された翌月、ブライアンは自宅のプールで溺死しているところを発見されます。
ブライアンの死はストーンズがミックのお披露目ライブとして企画していた「ハイドパーク・フリーコンサート」が開催される2日前のことでした。そのため、このライブは急遽ブライアンの追悼ライブとして開催されました。
オルタモントの悲劇
中心メンバーの脱退と死を乗り越え『Let It Bleed』をリリースしたストーンズですが、アルバムリリース後にも苦難は続きます。
同作のリリースを記念して開催された「オルタモント・フリーコンサート」は、チケット代を無料にして観客を招待しましたが、これにより観客が殺到して大混乱を招いてしまいました。
この混乱の末、コンサートの警備員と観客との間で揉め事が生じ、警備員は観客の黒人男性を刺殺してしまいます。この惨事はオルタモントの悲劇と呼ばれ、「ロックンロールにとって最悪の日」として各メディアで報じられました。
当時は不評だったケーキのジャケット
『Let It Bleed』のジャケットは、レコードの上に写るケーキが大きなインパクトを与えています。ジャケットに写っているケーキはデリア・スミスという若き女性料理研究家が作ったものです。
このジャケットデザインは、キースの知り合いだったデザイナーが提案したもので、これを気に入ったキースがデリアにケーキ作りを依頼しました。「とにかく派手に作ってくれ」という依頼内容だったそうです。
キースを始め、ストーンズのメンバーは大変気に入って世に放ったデザインでしたが、リリース当時の米ローリング・ストーン誌には「つまらないカバー・アートである」と評されてしまいました。しかし時が流れるにつれてストーンズの絶頂期を象徴するデザインとして再評価され、現在はニューヨーク近代美術館のコレクションに選出されています。
『Let It Bleed』の聴きどころを紹介
ここからは、『Let It Bleed』に収録された楽曲の聴きどころや魅力を紹介していきます。
代表曲『Gimme Shelter』
『Let It Bleed』の1曲目であり、代表曲とも言われているのが『Gimme Shelter』です。冒頭からダークで重厚な雰囲気のイントロが強烈なインパクトを与えています。曲全体に広がるこの暗い雰囲気は、ベトナム戦争からの影響だと名言されています。
女性ボーカルのメリー・クレイトンをゲストに迎えており、ミックとの鮮やかなデュエットは必聴です。
ブルース有名曲のカバー『Love in Vain』
2曲目に収録されている『Love in Vain』は、ブルースの超有名アーティスト、ロバート・ジョンソンのカバー曲です。原曲にはないパートもあり、新しい表情を見せています。
この曲が収録されたことによりストーンズが影響を受けた音楽的ルーツが示され、アルバムの世界観を固める役割を担っています。また、このカバーを「ブルースへの愛」を表現していると解釈するファンや音楽家も少なくありません。
『Midnight Rumbler』
印象的なギターフレーズから始まるブルースナンバー。小気味よいリズムですが、歌詞はボストン絞殺魔事件を題材にしており、センシティブな一面を持ち合わせています。
7分にもわたる大作となっていますが、曲中にテンポが加速していくというユニークな構成がフックになっており、飽きずに聴けることでしょう。
『You Got A Silver』
この曲ではメインボーカルをミックではなくキースが務めています。さらに『Let It Bleed』の中でブライアンがレコーディングに参加している数少ない曲の一つです。しかしブライアンが担当しているパートはオートハープであり、ギターではありません。
脱退してしまうブライアンと、この作品以後ストーンズの中心メンバーとして活躍していくキースの対比が悲しくも美しい1曲です。
The Rolling Stonesの最盛期を象徴する名盤
この記事ではThe Rolling Stonesの最高傑作『Let It Bleed』の制作秘話や魅力を紹介してきました。今やロック界のレジェンドとして知られているストーンズの最盛期を象徴する1枚であることが改めて感じられたのではないでしょうか。
ブルース・ロックの極地とも言えるクオリティで、今もなお名盤として語り継がれている作品です。ストーンズを聴いたことがない方が最初に聴くアルバムとしてもおすすめですので、この機会にぜひ一度手にとってみてはいかがでしょうか。