【UKパンク×〇〇】ザ・クラッシュ『ロンドン・コーリング』の魅力
Aventure編集部
ザ・クラッシュは1970年代後半から1980年代前半にかけて世界中で人気を博したイギリスを代表するパンクバンドです。彼らの作品の中でも『ロンドン・コーリング』は代表作品であり、収録楽曲だけでなくジャケットのアートワークもよく知られています。この記事ではザ・クラッシュの活動の軌跡から『ロンドン・コーリング』における作風や裏話、収録曲の魅力までまとめて紹介していきます。
ザ・クラッシュの紹介
名盤『ロンドン・コーリング』の魅力に迫る前に、ザ・クラッシュについて紹介しましょう。彼らが得意とする作風から活動の軌跡まで見ていきましょう。
ザ・クラッシュのプロフィールと作風
ザ・クラッシュは、1970年代後半から80年代に活躍したUKパンクバンドの代表格です。1976年、ミック・ジョーンズとポール・シムノン、ジョー・ストラマーの3人を中心に結成されました。解散までに何度かのメンバーチェンジを経ながら、合計で6枚のアルバムを世に送り出しています。
彼らの楽曲はパンクらしく当時の社会への反骨心を込めた歌詞が中心で、それらはマネージャーのバーナード・ローズの勧めで作られていたそうです。その一方で、彼らは楽曲にパンク以外のジャンルのエッセンスを積極的に取り入れました。レゲエやスカ、ロックンロール、ジャズやブルースなど、彼らの楽曲を聴いているとパンク一辺倒ではない表現の深さが感じられます。
こうしたジャンルを超えた楽曲制作はレゲエ好きのベーシストであるポール・シムノンや、加入前にジャズシーンで活躍していたドラマーのトッパー・ヒードンの影響があるといえるでしょう。
これまでに手掛けた作品とバンドの軌跡
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結成から間もない1977年に1stアルバム『白い暴動』をリリースし、イギリス国内での人気を確立しました。
1978年にはアメリカでレコーディングをおこなった2ndアルバム『動乱(獣を野に放て)』をリリースし、アメリカツアーを敢行します。実はアメリカでは彼らの1stアルバムである『白い暴動』は1979年に発売となり、1978年に発売された『動乱(獣を野に放て)』が実質的なデビュー・アルバムだったのです。
イギリスに続いてアメリカでも人気を確立したザ・クラッシュは、1979年には3枚目のアルバム『ロンドン・コーリング』を発売。2枚組、19曲入りの本作は歴史に残る名盤として語り継がれています。
1980年には4thアルバム『サンディニスタ!』を発表。パンク精神はそのままに、ダブ、ファンク、ヒップホップなどを独自のスタイルに昇華し、これまで以上に挑戦的な曲作りで世界的に評価を獲得します。
しかし、1982年の5枚目のアルバム『コンバット・ロック』の発表前にドラマーのトッパー・ヒードンがバンドを解雇されます。新しくドラマーを迎え、残ったメンバーで1985年に最後のアルバム『カット・ザ・クラップ』をリリースするも、そのままバンドは解散してしまうことになりました。
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解散から15年以上経った2002年11月には、ザ・クラッシュがロックの殿堂に選ばれ、2003年3月に授賞式が行われると発表されます。しかし、その1ヶ月後の2002年12月にジョー・ストラマーが逝去してしまったのです。
残されたメンバーでの再結成の声が高まる中、ポール・シムノンの反対もあり、ロックの殿堂の授賞式での再結成は叶いませんでした。シムノンが反対したのは「高価なチケット代を支払わないと入場できない授賞式ではなく、かつてのような安価なチケットを買ってライブハウスに来てくれる本物のファンの前でライブがしたい」という思いからでした。
その他にも『ロンドン・コーリング』が2枚組にもかかわらず通常のLP1枚分の価格で販売されたことも「ファンにたくさんの曲を届けたいから」だという逸話も残っているように、ザ・クラッシュは荒々しいパンク精神を持つ反面、ファン思いのバンドでもあったのです。
『ロンドン・コーリング』の作風と裏話
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ここからは1979年に発売されたクラッシュの代表作である『ロンドン・コーリング』に迫っていきます。後にローリング・ストーン誌に「1980年代最高のアルバム」として選出される名盤の作風や裏話を紹介します。
『ロンドン・コーリング』の基本情報
『ロンドン・コーリング』は1979年に、全19曲を収録したアルバムとして、LPレコード2枚組で発売されました。ローリング・ストーン誌によって80年代のベストアルバムに選出されたのは、アメリカでの発売が1980年だったためです。
インパクトのあるジャケットデザインも話題になり、現在ではUKパンクの名盤としてロックファン必聴の1枚として親しまれています。
パンクをベースに様々なジャンルを飲み込んだ作風
1曲目に収録されているタイトル曲『ロンドン・コーリング』の退廃的でパンクな曲調があまりにも有名ですが、ほかの収録曲を聴いてみるとレゲエ、ロックンロール、スカなどの多彩なジャンルのアプローチを取り入れた曲がたくさん収録されていることに気付きます。もし、タイトル曲の『ロンドン・コーリング』を聴いてハマらなかったリスナーがいれば、キャッチーで耳なじみのいい曲も多いので、ぜひ他の曲も聴いてみてください。
一方、歌詞のテーマになっているのは政治や社会問題に関わる内容が多く、各曲の芯にはパンクの精神が宿っていることも『ロンドン・コーリング』を語る上で重要なポイントです。
『Train in Vain (Stand by Me)』はシークレット・トラックだった!?
レコードのD面の5曲目、最終曲として収録されている『Train in Vain (Stand by Me)』は、レコードのジャケットに曲名が記されておらず、歌詞カードにも記載されていないことが知られています。そのため、「『Train in Vain (Stand by Me)』はシークレットトラックである」と言われることもあるのです。
しかし実際にはシークレットトラックではなく、ジャケットや歌詞カードの発注をしたあとに急遽アルバムへの収録が決まったため、印刷に間に合わなかったというのが実際のエピソードのようです。
その証拠に、後に発売されたCDには曲名が記されているほか、歌詞カードにも『Train in Vain (Stand by Me)』が掲載されています。
周年記念盤
1979年に発売されて以降、『ロンドン・コーリング』は名盤として愛され続けてきました。2004年には発売25周年を記念して『London Calling-25th Anniversary Edition』が、2019年には40周年記念盤が発売されました。
25周年盤はリマスターアルバムに加え、ヴァニラ・テープスと呼ばれるデモ音源集とDVDがセットになっています。40周年盤は最初に発売されたLP盤と同じくCDが2枚組のバージョン、全曲が収録された1枚のCDとブックレットが同梱されたバージョン、LP2枚組のバージョンの3形態が用意されました。ブックレットには貴重な写真や手書きの歌詞などが掲載されており、ファンならば手に入れたいものです。
有名なアルバムジャケットの背景
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『ロンドン・コーリング』を紹介する上で、ジャケット写真について触れないわけにはいきません。楽器を地面に叩きつけているのは誰なのか、ジャケットのタイポグラフィのサンプリング元のデザインも紹介します。
ジャケットに写っているのは誰?
ジャケットでベースを地面に叩きつけているのはベースのポール・シムノンです。1979年のアメリカツアーでのライブでのワンシーンをフォトグラファーのペニー・スミスが撮影しました。
このジャケットをひと目見るだけでザ・クラッシュのライブパフォーマンスや楽曲の作風が想像できます。このジャケットデザインがここまで注目を集めたのは、この1枚の写真で「ザ・クラッシュがどんなバンドなのか」を表していたからと言えるでしょう。
ちなみに、写真の中で叩きつけられているベースは、ロンドン博物館に展示されています。
どこかで見覚えがあるタイポグラフィの正体は?
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ジャケットの緑とピンクのタイポグラフィに見覚えがある方もいらっしゃると思います。『ロンドン・コーリング』のデザインをパロディした作品もたくさんあるのですが、実はサンプリング元となったデザインがあるのです。
それはエルヴィス・プレスリーのファースト・アルバム『Elvis Presley』でした。エルヴィス・プレスリーというとロックンロールのアイコン的存在ですが、意外にもポップなタイポグラフィを採用していたのです。
収録曲の聴きどころ紹介
最後に『ロンドン・コーリング』に収録されている楽曲の中から、3曲をピックアップして歌詞の内容や楽曲の特徴を紹介していきます。
『London Calling』
アルバム1曲目に収録されているタイトルトラックです。キレのいいギターのカッティングとそれを支えるベースラインが印象的なイントロから始まります。イントロに続いて始まるサビパートのボーカルも無骨という言葉がぴったりな雰囲気で、退廃的でダークなパンクナンバーに仕上がっています。
歌詞には当時の音楽シーンへの対抗心や政治的メッセージが多数盛り込まれていますので、気になる方はぜひ歌詞を見ながら聴いてみてください。
『Rudie Can’t Fail』
『Rudie Can’t Fail』はパンクの中にスカのエッセンスを感じられる楽曲です。タイトルトラックの『London Calling』とは異なり、明るいコード感が味わえるギターの裏打ちフレーズに加え、華やかなブラスサウンドがアルバム収録曲の中でもとくに陽気な雰囲気を演出しています。
一方、歌詞の中ではルーディ、つまりろくでなしの若者が真っ当に生きていこうと葛藤している様子が描かれており、当時の若いリスナーの中にはこの歌詞に心を打たれた方も多いでしょう。
『Guns of Brixton』
アルバムの10曲目、LP盤ではB面の最終曲として収録されています。裏打ちで進行するギターのバッキング、聴いていると頭がふわふわと酔っぱらいそうになるベースラインやグルーヴ満開のレゲエビートを刻むドラムが特徴的。曲のどこを切り取っても見事にレゲエやダブの要素が取り入れられており、アルバム内でもひときわ目立つ1曲です。
この曲はブリクストン出身であるベーシストのポール・シムノンが制作した曲で、治安の悪い攻撃的な歌詞が描かれています。
ジャンルの壁とベースをぶっ壊した名盤『ロンドン・コーリング』
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イギリスを代表するパンクバンド、ザ・クラッシュの名盤『ロンドン・コーリング』について紹介しました。パンクロックを土台にメンバーのバックボーンである様々な音楽ジャンルを混ぜ合わせたスタイルで世界中のロックリスナーを釘付けにした名盤であることが伝わったと思います。
音源に加えてメンバーのポール・シムノンがベースを叩きつける写真が使われたジャケットも有名で、目で見て耳で聴いて味わえる作品です。
CDだけでなく当時のLP盤、周年記念盤などいくつかのバージョンがありますので、気になった方はぜひ実際に手に取ってみましょう。