アース・ウインド&ファイアー『太陽神』・宇宙と音楽の融合
Aventure編集部
アース・ウィンド&ファイアーの7thアルバム『太陽神(ALL ’N ALL)』は、モーリス・ホワイトが思い描く神秘的なコンセプトによって制作された作品です。グルーヴ感溢れるファンクが楽しめる本作はダブル・プラチナム・アルバムを獲得し、全米アルバムチャートで最高3位を記録するなど、大ヒット作として語られています。この記事では『太陽神』の根強い人気の理由と、アルバムコンセプトについて詳しく紹介していきます。
モーリス・ホワイトのアース・ウインド&ファイアー
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アルバム『太陽神』のコンセプトを理解するには、アース・ウインド&ファイアーのなりたちを知る必要があります。バンドの創立者であるモーリス・ホワイトがアース・ウインド&ファイアーを結成するまでの歴史を辿ります。
モーリス・ホワイトの軌跡
アース・ウインド&ファイアーの生みの親であるモーリス・ホワイトは、1941年12月19日にアメリカのメンフィス州に生まれました。祖父がピアニストであったこともあり、幼い頃から音楽に親しみ、12歳でドラムをたたき始め、高校生になると同級生とバンドを組んでいました。
高校卒業後はシカゴ音楽院に学び、新たなバンドでキャリアをスタートしたところへチェス・レコードからオファーを受け、レコード会社の専属ドラマーとして活躍の場を得ました。その後1966年にラムゼイ・ルイスに師事をし、彼のバンドに加入します。
ラムゼイ・ルイスのバンドで3年間の活動をした後、1969年にはアース・ウィンド&ファイアーの前身となる自身のバンド、ソルティ・ペパーを結成し、キャピタル・レコードからデビューを果たしました。
アース・ウインド&ファイアーの結成からヒットまで
満を持してソルティ・ペパーでメジャーデビューを果たしたモーリス・ホワイトですが、思ったような結果は得られませんでした。そこで彼は、バンドのコンセプト自体を見つめ直して再起を図ります。1970年、ワーナー・ブラザースに移籍し、バンド名をアース・ウインド&ファイアーに改名しました。
バンド名を変更して再スタートを切ったものの、初めにリリースした2枚のアルバムはヒットには至りませんでした。そこでモーリス・ホワイトはバンド内の編成を改めるべく、新たにボーカル担当のフィリップ・ベイリーやドラム担当のラルフ・ジョンソンらをバンドに迎え入れます。モーリス・ホワイトとフィリップ・ベイリーによるツインボーカルにホーンセクションを重ねるというアース・ウインド&ファイアーの体制は、このようにして確立されました。
こうしてバンドの再編成をおこなったのち、1972年にコロムビア・レコードからアルバム『Last Days&Time(地球最後の日)』をリリースし、ヒットをつかんだのです。
アース・ウインド&ファイアーの音楽性と目指すもの
アース・ウインド&ファイアーの音楽性は、アフロアメリカンミュージシャンが作り出してきたソウルやジャズの要素にロックをミックスさせる画期的なものでした。「アフロアメリカンはソウルやジャズ、R&Bを聴き、白人はロックやポップス、カントリーを聴く」といったように、当時は人種によって聴いている音楽が分断されていました。
そうした中でモーリス・ホワイトは「人種などの垣根や音楽的カテゴリーを超え、すべての音楽をフュージョンし、人々にインパクトを与えるバンドを」という構想を持って、アース・ウインド&ファイアーを作り出したのです。
『太陽神』の成功とモーリス・ホワイトの戦略
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モーリス・ホワイトが思い描くコンセプトから作り出される数々の楽曲は、魅力的なサウンドとバンドのダイナミックなパフォーマンスなども功を奏し、徐々に人気を広げていきました。プラチナム・ディスクを獲得するなどの快進撃を見せる中、1977年に7枚目のアルバム『太陽神』がリリースされます。
アルバムコンセプト
モーリス・ホワイトがアース・ウインド&ファイアーを結成した下地には、宇宙論をも結び付けたスピリチュアルで普遍的な世界観がありました。『太陽神』は結成当初のコンセプトに立ち返っており、原点回帰のアルバムであると言えるでしょう。
このアルバムのテーマは「神殿と宇宙」。モーリス・ホワイトは、アフロアメリカンミュージックのルーツでもあるアフリカンミュージックと自身が理想とするスピリチュアルな世界の融合を『太陽神』に込めたのです。
ジャケットデザイン
エジプトのファラオ像とピラミッドが神秘的なジャケットデザインは、イラストレーターの長岡秀星によるものです。長岡は1970年にアメリカに渡り、映画広告やレコードジャケット制作でハリウッドを拠点に2004年まで活躍しました。長岡の手がける緻密で壮大なアートデザインは、アース・ウインド&ファイアーの理想とする世界観を見事に表現しています。
長岡は『太陽神』の他にも『天空の女神』『創世記』など、アース・ウィンド&ファイアーのアルバムのうち、5作品のジャケットデザインを手掛けました。バンドが持つ神秘な世界観と長岡の作風がマッチしていたのでしょう。
『太陽神』で確立したバンドの成功
『太陽神』には彼らの代表曲にもなる『宇宙のファンタジー』などのヒット曲が収録され、全米アルバムチャート3位、ダブル・プラチナム・アルバムを獲得するなど、興行的にも成功を収めました。先だって、1975年発表のシングル『シングアソング』の大ヒットを足がかりに、この『太陽神』の大ヒットによって彼らはスーパースターの地位を不動のものとしたのです。
この時期の彼らの勢いは楽曲にも表れており、その力強いダイナミズムには圧倒されます。
バンドらしさが光る『太陽神』ヒットの理由
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バンドの代表作と名高い『太陽神』ですが、アルバムチャート全米3位まで上り詰めた『太陽神』のヒットの要因には何があるのでしょうか。
2大ヒット曲に見る音楽性
『太陽神』に収められた楽曲はオリジナル版で全11曲です。様々な打楽器や民族楽器でアフリカンミュージックのエッセンスを取り入れた曲もあれば、きっちり音の揃ったホーンセクションが輝くドライブ感のあるファンク、あるいはメロディアスで壮大なR&Bなど、アース・ウインド&ファイアーの持ち味を存分に表現しきった内容です。
中でも大ヒット曲となった『宇宙のファンタジー(Fantasy)』は、ダンスクラシックナンバーとして現在でも不動の人気を誇ります。同様にヒット曲の『銀河の覇者(Jupiter)』も、ホーンセクションの奏でるパートはしばしばサンプリングとして使用され、誰でも一度は耳にしたことがあるくらいの有名な曲です。
もちろんこの2曲だけでなく、『太陽神』のすべての収録曲にはアース・ウインド&ファイアーらしさが溢れるいきいきとした作品ばかりで、聴いていて飽きることがありません。『宇宙のファンタジー』と『銀河の覇者』を聴きたくてアルバムを手に取り、知らずしらずに『太陽神』の魅力に引き込まれてしまったリスナーも少なくないはずです。
音楽シーンとメディアの時流に乗る
1977年は、映画『サタデー・ナイトフィーバー』のヒット、ABBAやKC&ザ・サンシャイン・バンドなどの台頭で、ディスコシーンが大いに沸き立ちました。アース・ウインド&ファイアーのダンサブルでダイナミックな楽曲は、見事にこの時代にマッチしたのです。
また、彼らのライブパフォーマンスも大きな話題になりました。宇宙服のような派手な衣装や壮大なステージセット、そしてケーブルで体をつないで空中を行き交う演出などは当時大きな注目を集めたのです。そうしたモーリス・ホワイトの音楽的な志向やオーディエンスを楽しませる工夫は、戦略的にも見事大成功を収めました。
『太陽神』のコンセプトとサウンドの融合を楽しむ
モーリス・ホワイトが哲学と音楽の融合を表現する場として結成したアース・ウインド&ファイアー。数々の実験的なアルバムを手掛ける中、1977年にアフリカンサウンドと宇宙の神秘性を融合したコンセプトアルバム『太陽神』が完成しました。
『太陽神』は当時のメディアや音楽シーンに受け入れられて大ヒットし、ダブル・プラチナム・アルバムも獲得しました。このころのアース・ウインド&ファイアーはキャリアの中でも絶頂期であり、当時の力強いホーンセクションとダンスパフォーマンスや楽曲スタイルは今でも根強い人気があります。この機会にグルーヴ感たっぷりの純正ファンクを楽しみましょう。