レッチリが初期に放った名盤『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』
Aventure編集部
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの5作目となるスタジオ・アルバムで、90年代ロックを代表する名盤として知られています。この記事では、レッチリを語る上でも外せないこのアルバムが誕生した背景やエピソードについて解説していきます。
殿堂入りのロックバンド、Red Hot Chili Peppers
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レッド・ホット・チリ・ペッパーズは1983年、アメリカのカリフォルニア州で結成されたロックバンドです。世界中の音楽好きがその名を知る人気バンドであり、日本でも「レッチリ」という愛称で親しまれています。
Red Hot Chili Peppersの略歴
レッド・ホット・チリ・ペッパーズは、高校の同級生であったアンソニー・キーディス、フリー、ヒレル・スロヴァク、ジャック・アイアンズの4人で結成されました。翌年、セルフタイトルのファーストアルバム『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』をリリースし、精力的な楽曲制作とライブ活動を行うようになります。4枚目のアルバム『母乳』が国内でヒットし知名度を上げた後、続く5作目のアルバム『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』が世界的なビッグセールスを記録し、ロックバンドのトップランナーとして名乗りをあげました。
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の発売と同年の1991年には、同作からシングルカットされた『ギブ・イット・アウェイ』でグラミー賞のハードロック部門最優秀シングル賞を獲得します。2012年にはロックの歴史や発展に大きな影響を与えたアーティストとして、ロックの殿堂入りを果たしました。
デビューから30年以上にわたって数々のヒット曲を生み出し、ロックバンドのレジェンドとして活躍しています。
メンバーとその遍歴
レッチリはメンバーの入れ替えが激しく、活動時期ごとにメンバーのプレイスタイルが異なります。そのため、作品によって音楽性や楽曲が持つ表情が少しずつ変化しています。
短かったオリジナルメンバーでの活動
結成時のオリジナルメンバーが全員在籍していたのはわずか5年ほどでした。その間ヒレルとジャックはバンドに在籍しているにもかかわらず、アルバム制作から離脱していた時期もありました。そのため、オリジナルメンバーが全員揃って制作したアルバムは1枚しかありません。
バンドの核、アンソニーとフリー
ボーカルのアンソニーとベースのフリーはレッチリの中心メンバーで、結成以来1度も離脱することなく活動を続けています。もともとアンソニーのラップとフリーのスラップベースの相性が良かったことが結成のきっかけだったとも言われており、レッチリの音楽的アイデンティティの大部分を占めています。どの時期の作品にも共通している「レッチリらしさ」を演出しているのは、間違いなくこの2人のプレイだと言えるでしょう。
入れかわるドラムとギター
ドラムとギターのパートはメンバーチェンジを経て現在の編成に至っています。ドラムはジャックに代わって加入したチャド・スミスが現在まで在籍し続けています。
ギターは実に多くのメンバーチェンジを経験していました。中にはわずか数日で解雇されたメンバーも存在し、これまでに10人にものぼるギタリストが代わるがわる在籍してきました。そんな中、最も長期にわたってギターを務めているのはジョン・フルシアンテです。彼はもともとレッチリの熱狂的なファンであり、オーディションを受けて加入することになりました。以降ドラッグ依存やソロ活動への専念を理由に脱退と復帰を繰り返していますが、「レッチリのギタリストと言えばジョン」と言われる存在です。
埋められない穴となったヒレル
レッチリのギタリストが度々入れ替わっている理由は、オリジナルメンバーであったギタリスト、ヒレルの死にあります。ヒレルはアンソニーとフリーの親友であり、レッチリの音楽活動にとって大切な存在でしたが、1988年にヒレルはヘロインの摂取過多により死亡してしまいます。
ヒレルの死後、レッチリのギタリストは何度も変わっていますが、それに関してアンソニーは「誰もヒレルの穴を埋められないから」と話しています。
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の誕生
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レッチリの歴史の中でも最も重要な作品とされる『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はどのようにして生まれたのか、制作にまつわるエピソードを紹介していきます。
前作『母乳』から続くエピソード
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『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の誕生を語るにはまず、前作に当たる『母乳』に触れなければなりません。『母乳』は、ヒレルの死とジャックの脱退により、精神的にも音楽的にも大きな喪失を経験したレッチリが、新メンバーとしてドラムにチャド、ギターにジョンを迎えて再スタートを切ったアルバムです。
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、『母乳』と同じメンバーで制作されました。同じメンバーで2作続けて制作するのは、レッチリにとって初めてのことでした。だからこそ『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、それまでのレッチリにはない洗練されたアンサンブルが楽しめるのです。
新たなプロデューサーを迎え、満を持して『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の制作へ
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の制作にあたって、レッチリはリック・ルービンというプロデューサーを迎えます。彼は90年代ロックを牽引することになるレーベル、デフ・ジャム・レコーズとアメリカン・レコーディングスを立ち上げた人物であり、先進的な音楽を追求していたプロデューサーです。以前からレッチリが持つ音楽性に興味を持っており、『母乳』のヒットが決定打となって『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』でタッグを組むことになりました。
リックと手を組むことは、同時に前プロデューサーであったマイケル・バインホーンから離れることを意味しています。マイケルもプロデューサーとしての手腕は高かったのですが、理論的・知性的な音楽観によりレッチリの音楽性を少し抑圧するような一面があったのです。特にギタリストのジョンとの対立は多かったようで、彼のギタープレイの本領は『母乳』では発揮されませんでした。
ルービンの邸宅で行われた制作、レコーディング
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の作曲およびレコーディングは、ほとんどがプロデューサーのルービンの邸宅で行われました。ルービンの邸宅は寝室だけでも10部屋を超えるような豪邸で、幽霊が出るという噂がありました。幽霊が出るかもしれないというシチュエーションにほとんどのメンバーは興奮していましたが、チャドだけは大反対の末、泊まり込みを拒否したという逸話があります。
『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の聴きどころ
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ここまで解説してきたように、『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はレッチリが精力を注いで完成させた作品です。彼らがどのように音楽と向き合ってきたかは、そのサウンドからも十分に感じられるでしょう。ここからは『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の聴きどころを紹介していきます。
リードトラック『Give It Away』
まずはシングルカットもされたリードトラック『Give It Away』を聴いてみてください。レッチリ独自の音楽性と言われる、ファンクにハードロックやパンクを融合させたスタイルが感じられるはずです。それでいてなんとも繊細なアンサンブルでサウンドがまとまっていることは、特筆すべき点でしょう。
さらにタイトルが繰り返されるサビのフレーズは、1度聴いただけで耳に残る印象深さがあります。時代や国を問わず、繰り返されるフレーズは大衆に受け入れられやすいものです。レッチリ自身が大衆受けというものをそれほど望んでいたかは定かではありませんが、結果として世界中に大きなムーブメントを起こす1曲になったことは間違いありません。
前作『母乳』と聴き比べる
他の作品と聴き比べることで『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』の個性がよりハッキリと見えてきます。比較対象としてふさわしいのが、度々登場している前作『母乳』です。やはり『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は『母乳』との連続として見るとより面白く感じられるはずです。
聴き比べてみると『母乳』収録曲は衝動的で、ラップロックというジャンルにぴったりとはまるエネルギッシュなサウンドが感じられます。
対して『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、1曲1曲が本当に表情豊かなのです。メロウなギターフレーズが印象的な『Under the Bridge』や、その他にも哀愁漂うアルペジオが印象的な『I Could Have Lied』、ジョンのブルージーなギタープレイが際立つ『Funky Monks』など、表現のバリエーションが大幅に広がっていることが感じ取れます。
前作との違いを比較して聴いてみると、このようにプロデューサー交代の影響が色濃く感じられるはずです。
レッチリをレジェンドの座に押し上げた名盤
この記事ではレッチリの5作目となるスタジオアルバム『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』にまつわるエピソードや聴きどころについて解説してきました。『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズがロック界のレジェンドの座に駆け上がる中で、最も大きな足掛かりとなった作品と言っても過言ではありません。
今なお世界中のロックリスナーの間で語り継がれる不朽の名盤『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』を、ぜひこの機会に1度聴きなおしてみてはいかがでしょうか。