経営者の頭を悩ますストックオプションの賢い活用方法とメリットデメリットを解説
Aventure編集部
ストックオプションは一定期間において、特定の値段で株式を購入できる権利のことです。主に従業員のモチベーションアップを目的とし、財務的な余裕がなくても、場合によってはストックオプションを付与することで優秀な人材を獲得することができます。
上場を目指すスタートアップや、上場した新興企業を中心に発行されます。しかし、その実態はあまり知られていません。この記事では、ストックオプションという言葉を耳にした経営者や従業員、株主に対して、その仕組みやメリット・デメリットを解説します
ストックオプションとは?
ストックオプションとは新株予約権の一種で、会社が個人に対して特定の金額で株式を購入する権利を付与することです。付与する対象は取締役や従業員だけに限りません。入社予定者や社外のアドバイザー、取引先などにも発行することができます。
株価が上昇した時点でストックオプションの権利を行使すると、権利行使価格と株価との差額が生じます。ストックオプションを付与された人は、その差分を利益として得ることができます。通常、株価は業績に連動して上下します。ストックオプションの付与は業績と株価を上向かせることを目的とし、関係者のモチベーションアップを図るものです。
ストックオプションの仕組み
ストックオプションは主に2つの要素でできています。
・決められた期間内であること
・決められた価格で株式を購入すること
A社の株価がある時点で1株500円だったとします。「5年間は1株700円でいつでも株を買う権利を与えます」というストックオプションを付与したとします。A社の株は1年後に2,000円になりました。このとき、付与された人が権利を行使すると、1株700円で購入できます。市場では2,000円で取引されていますので、権利を行使して市場で売却すれば1,300円の利益が得られます。
通常、株式の取引は100株が単元となりますのでストックオプション1個あたり13万円が利益となります。次に企業の具体的な事例をみてみましょう。
リクルートホールディングス
リクルートは2019年7月に新株予約権を発行しています。主な内容は以下の通りです。
【割当対象者と個数】
社外取締役を除く取締役5名に3,190個
執行役員6名に1,159個
※1個に対して100株
【行使価額】
割当日(2019年7月31日)の終値
3,718円
【行使可能期間】
2019年7月31日~2029年7月30日
リクルート株は、2022年4月28日の終値が4,818円。仮に600個のストックオプションが付与されており、2022年4月28日にすべての権利を行使したとします。差益は6,600万円です。
ストックオプションの種類
ストックオプションにもいくつかの種類があります。それぞれの特徴を解説します。
通常型
最もポピュラーなストックオプションです。リクルートは通常型に当たります。関係者に無償で付与するもので、業績と株価が上がったことへのインセンティブの役割を果たします。
なお、税制適格の要件を満たしている場合、権利行使時には所得税は課税されません。株式を取得し、売却して利益を出した段階で課税されます。
有償型
ストックオプションを付与する際の時価で発行するものです。2021年7月にソフトバンクが有償型ストックオプションを発行しています。主な内容は以下の通りです。
【行使価額】
1株1円
【権利の購入額】
1個当たり129,500円
【行使可能期間】
2023年8月1日~2028年7月31日
1株1円で行使できるストックオプションを1,295円で会社から買うことができるものです。ソフトバンク株は2022年4月28日の終値が1,515円でした。
行使可能期間に入っていませんが、仮に2022年4月28日に権利を行使したとすると、1個当たり21,900円の差益が得られることになります。
株式報酬型
あらかじめ決められた行使価格をほぼ無償で設定し、権利行使時に株式で報酬を支払う場合に利用します。例えば、「100株を1円で購入可能」などと設定し、権利行使時の株価をそのまま報酬にするのです。
役員や役員の退職慰労金などとして使われることが多いものです。
信託型
普通型ストックオプションは役員や執行役員など、付与する対象をあらかじめ定めて発行します。一方、信託型は発行時点で付与する対象を決めません。定められた任意の期間内で、役職や貢献度など、設定した条件に該当した人に対して付与されます。
事業を走らせたばかりのスタートアップなどでは、十分な役員やスタッフがそろっていないことがあります。将来的に迎え入れる役員や社員に対してストックオプションを付与することができるのです。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションでは、年間の権利行使が1,200万円以下、大口株主でないなどの条件をクリアすれば、所得税はかからず譲渡所得のみ課税されます。
税制非適格ストックオプション
所得税と売却益への課税の二重で税金がかかるタイプです。
メリット
ストックオプションを発行するメリットはどのようなものがあるでしょうか。
従業員のモチベーションアップ
資金力のある企業は賞与などによってモチベーションアップを図ることができます。しかし、新興企業などは十分な運転資金がありません。そのような場合でも、ストックオプションを関係者に付与することで、業績を上げるためのモチベーションを高めることができます。
優秀な人材の獲得
スタートアップにおいては、資金力も知名度もないことから、優秀な人材を獲得することが困難です。特にIPOを目指すうえで重要な役割を果たすCFO(最高財務責任者)は、証券会社や投資銀行などで経験を積んだ人が好ましく、高報酬をすでに得ている人ばかりです。
高報酬の人材を引き抜きたいと考えたとき、ストックオプションの発行は有効な手段となります。特にベンチャーキャピタルなどから出資を受けており、上場を目指している場合は避けては通れないでしょう。
取引先にも付与できる
ストックオプションの発行は社内関係者だけに限られない点もメリットが高いです。例えば、営業が得意な会社があったとします。商材は取引先から仕入れているとしましょう。この場合、商品力が強くなければ営業力は強化できません。
ストックオプションを付与することにより、低コストで商品力を上げることもできます。
発行するリスクが低い
ストックオプションを発行するだけであれば、多額の資金を必要とはしません。仮に株価がストックオプションで定められた権利行使価額を下回ったとしても、会社や付与された人に何らかの損失が生じるわけではありません。
デメリット
もちろんデメリットもあります。それを把握してどのように対策を打つかを考えるのが重要です。
権利行使後に人材流出する可能性がある
ストックオプションを付与した後、順調に株価が上昇したとします。その際に業績の底上げに寄与した役員や社員が、権利行使後に会社を抜けてしまうこともあり得ます。割当の対象者は優秀な人が多く、流出してしまうのは会社にとって痛手です。
業績が上向いたら、ストックオプションとは別で高報酬体系にするなど、別のインセンティブ設計が必要になります。
市況の悪化で従業員のモチベーションが下がることがある
株価が上昇しなければインセンティブとしての役割を果たせません。株価は基本的に業績に連動して上がるものですが、利上げや為替の影響も受けます。また、会社の不祥事やスキャンダルなどで大幅に下がることもあります。
付与された人に損失が生じるわけではありませんが、モチベーションを失うことにもなります。
業績が伸び悩むと意味がない
業績が上がらない要因は複雑です。個人ではどうにもならないことがあります。小規模なスタートアップにおいては、キーマンの活躍が業績に大きく寄与します。しかし、組織の規模が大きくなるとそうは上手く行きません。
規模の大きな会社がストックオプションの発行を考える場合、その内容は十分に検討する必要があります。ソフトバンクのように有償型ストックオプションを発行するのも手段の一つです。
株式の希薄化
ストックオプションを大量に発行すると、潜在株式数が増加して株式の希薄化懸念が生じます。それにより、上場後に既存株主が保有する株式の価値が低下する要因にもなりかねません。一般的には発行済み株式総数の15%程度にすることが多いと言われています。
特にIPOを目指す経営者は、適格な資本政策を構築する必要があります。
ストックオプションを発行する手順
発行の流れは以下のようになります。
・株主総会特別決議での募集事項の決定
・募集新株予約権の申し込み、割当または総数引受契約締結
・ストックオプションの発行と登記
ストックオプションは募集事項を決定する必要があります。非取締役会設置会社の場合は、株主総会での特別決議が必要になります。特別決議とは、総議決権個数の過半数が出席し、その中から2/3の承認を得る決議です。
ストックオプションの発行は、申込から割当まで一連の手続きを行う場合と、手続きを簡略化して総数を引き受けてもらう契約を締結する場合の2つのパターンがあります。
総数を引き受けてもらう先が決まっている場合は、総数引受契約を締結することで、手続きを簡略化できます。
ストックオプションを発行したら登記が必要です。
税制優遇措置を受けるための要件とは?
Googleの社員はかなりの額のストックオプションを付与されていると言われており、スタートアップを中心にストックオプションを活用するのが当たり前の時代。関係者のモチベーションを高め、事業の成長や業績を上げることに大いに役立ちます。優秀な人材を外部から迎え入れる有効な手段でもあり、上場を目指す会社には欠かせないものとなっています。
ストックオプションは、業績を上げるモチベーションが高まるために経営者だけでなく、株主に対してもメリットが高いものです。経営者、株主、従業員、その他関係者がwinとなる可能性を秘めています。