世界一売れたファンクアルバム、ジャミロクワイ『Travelling Without Moving 』
Aventure編集部
ジャミロクワイのアルバム『Travelling Without Moving』は、ファンク好きの方なら一度は聴いたことがある名盤です。日本でもCMのタイアップに起用された曲が収録されており、名前を知っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、名盤と言われる『Travelling Without Moving』の魅力に迫ります。
ソロユニット?バンド?謎に包まれたジャミロクワイの正体
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1992年にイギリスでデビューしたジャミロクワイは、ボーカルのジェイ・ケイを中心としたバンドの名前であり、ケイ自身のステージネームとしても使われています。バンドのこともジェイ・ケイ個人のことも表す名義です。
ライブ演奏やCDの制作はバンドとして行っていますが、活動の中で何度もメンバーが入れ替わっています。
名前の由来
バンド名は即興でのライブを意味する「ジャムセッション」と、北米インディアンの「イロコイ族」を合わせた造語です。イロコイ族は言論・信教の自由や人々の平等を思想として取り入れていた民主的・先進的な部族です。
彼らの思想に共感とリスペクトを持ってアーティスト名に取り入れたとされています。
ジャミロクワイの来歴
1992年、ケイがアシッド・ジャズ・レコーズに自主制作のデモテープを持ち込み、その実力を買われて契約に至りました。
デビューシングルの『When You Gonna Learn ?』がヒットし、イギリス国内のクラブシーンで大きな話題を呼びます。これを受け、大手レーベルであるソニー・ミュージックとアルバム8作のリリースを前提とした内容で契約。デビュー作がヒットしたとは言え新人アーティストとしては異例のことであり、彼の才能がいかに早く認知されていたかがうかがえるエピソードです。
ジャミロクワイはその後も数々のヒット作を生み出しており、後世のアーティストにも大きな影響を与えています。2010年以降リリースは数を減らしていますが、精力的に活動を続けています。
ジャミロクワイのトレードマーク「バッファローマン」
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『Travelling Without Moving』のジャケットにも描かれているキャラクターはバッファローマンという名前で、ジャミロクワイのロゴとしても使用されています。バッファローマンはケイ自身がモデルとなっており、彼がインディアン風の被り物をしたシルエットを模してデザインされました。ケイが実際にインディアン風の被り物をしている姿はライブ映像やアーティスト写真などで確認でき、特徴をよく捉えていることが分かります。
世界ではバッファローマンという名前で親しまれているこのキャラクターですが、日本ではメディシンマンという呼び方の方が一般的です。『キン肉マン』に登場する同名キャラクターと区別するためにメディシンマンと呼ばれるようになったという説があります。
ジャケットが差し替えられた過去
ジャミロクワイのアルバムジャケットはバッファローマンをアイキャッチとして統一感を演出しています。しかしこのようなジャケットの方向性が定まったのは初期作品が既にリリースされたあとでした。
それまでにリリースされていたアルバムは現在流通しているものと違うジャケットであり、後に差し替えられたという過去があります。差し替えられる前のデザインのレコードはレアアイテムとしてオークションなどで高価で取引されています。
最大のヒット作となったTravelling Without Moving』
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『Travelling Without Moving』は、ジャミロクワイの3作目となるアルバムです。ジャミロクワイはそれまでも注目のアーティストでしたが、このアルバムをきっかけにイギリスのクラブシーンから世界のメジャーシーンへと名を轟かせました。収録曲も名曲揃いで、彼のキャリアを代表する最高傑作として知られています。
世界で700万枚、日本国内でも140万枚を売り上げており、リリース年のグラミー賞最優秀ポップ・パフォーマンス賞を獲得しました。また、アシッドジャズ史上最も売れたアルバムとしてギネスに認定されています。
日本でも話題になった『Virtual Insanity』の制作背景
『Virtual Insanity』は、『Travelling Without Moving』に収録されている曲で、ミュージックビデオにもなっているリードトラックです。世界的にもキラーチューンとして認知されましたが、特に日本において大きな話題になった一曲です。
CMソングに起用され話題に
『Virtual Insanity』は『Travelling Without Moving』のリリースと同じ1996年に日本でソニーのウォークマンのCMソングに起用され、ケイ本人もCMに出演したことから日本でも大きなブームを巻き起こしました。
また2010年にも日清カップヌードルのCMソングとなり、商品名などを取り入れた替え歌が披露されました。
『Virtual Insanity』は札幌で生まれた?
ケイは自身のライブ公演でのMCで『Virtual Insanity』について興味深い発言をしています。『Virtual Insanity』は彼が札幌に訪れた時に受けたインスピレーションをもとに誕生したというのです。
札幌の地下街で目にした「人間が作り上げた地下の世界に潜り込む様子」が『Virtual Insanity』の歌詞に影響を与えたというのです。
シニカルな『Virtual Insanity』の歌詞
そんな札幌の様子から着想を得た『Virtual Insanity』の歌詞は、狂気に満ちた仮想の世界で生きる私たちをシニカルに表現しています。私たちが生きている世界は狂気に染まっており、お互いに奪い合い、悪い方向へと向かっているという内容です。
人間が作り上げたした札幌の地下街の様子から転じてこのような世界観が構築されたのでしょう。
『Virtual Insanity』の歌詞は現代にかけて深まる情報化社会やネット社会を予見しているようにも思われるため、たびたび再評価されています。
『Travelling Without Moving』を深く味わう
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ここからは、『Travelling Without Moving』に収録された楽曲の聴きどころや魅力を紹介していきます。
知っておきたい音楽ジャンル「アシッドジャズ」
『Travelling Without Moving』のサウンドをより深く味わうためには、アシッドジャズという音楽ジャンルについて概要を知っておくといいでしょう。
アシッドジャズとはジャズから派生して生まれた音楽で、ロンドンのクラブシーンで広まったと言われています。当時のDJたちがクラブでジャズやソウルをかけたことに端を発し、ジャズをベースにさまざまな音楽ジャンルをクロスオーバーさせた踊れるサウンドが特徴です。
オシャレさとノリの良さが組み合わさった新しいサウンド「アシッドジャズ」が『Travelling Without Moving』には取り入れられています。
リードトラック『Virtual Insanity』
『Travelling Without Moving』の聴きどころとして真っ先に紹介したいのは、やはりリードトラックの『Virtual Insanity』です。日本でCMに何度か起用されているため名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
ジャズらしいオシャレなコード、印象的なサビのフレーズ、つい体が動いてしまうような横ノリのリズムが合わさり、心地いいサウンドが展開されます。ジャズをあまり聞いたことがない方やジャミロクワイを初めて聴く方にもおすすめの一曲です。
『Cosmic Girl』
『Cosmic Girl』は『Virtual Insanity』の次にシングルカットされており、名曲として知られています。ジャズというよりはファンクの要素が強く、ダンサブルなリズムが特徴的です。
『Cosmic Girl』はシングルリリースの直後にアメリカのダンス・ミュージックチャートで7位にランクインしており、世界中に与えたインパクトの大きさがうかがえます。
『You Are My Love』
イントロから引き込まれるフレーズが印象的です。軽快で勢いのある前半部分を経て浮遊感のあるサビに繋がる構成は意外性があり、何度も聴きたくなってしまう中毒性があります。
前半はギター、後半はシンセサイザーが印象的なフレーズを奏でており、リードパートが交代しているという遊び心もこの曲の魅力です。
異例のヒットを記録した傑作『Travelling Without Moving』
ジャミロクワイの最高傑作『Travelling Without Moving』に関する秘話や魅力を紹介しました。リリースから年月が経った今でも色褪せることのない名曲揃いで、世界中のリスナーを魅了し続けるこの作品を手にとってみてはいかがでしょう。