プログレの原点にして頂点!『In The Court Of The Crimson King』の魅力とは?
Aventure編集部
1969年に発売された、キング・クリムゾンのファーストアルバム『In The Court Of The Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)』は、プログレッシブ・ロックを確立した名盤です。従来のロックにクラシックやジャズのエッセンスを加え、革新的な楽曲でイギリスロック界に旋風を巻き起こしました。その衝撃は、ビートルズをチャート1位から引きずり落としたという逸話が囁かれるほどです。この記事では、ロック愛好者必聴の『In The Court Of The Crimson King』について、特徴や聴きどころ、キング・クリムゾンの歩みやメンバーなどをご紹介します。
『In The Court Of The Crimson King』とは
『In The Court Of The Crimson King』は、1969年10月10日に発売された、KingCrimson(キング・クリムゾン)のデビューアルバムです。邦題は『クリムゾン・キングの宮殿』で、キング・クリムゾンのデビューアルバムにして、プログレッシブ・ロックを確立した名盤と言われています。
チャート上位の常連であったビートルズの『アビイ・ロード』をチャート1位から引きずり落としたアルバム、という逸話が囁かれるほど、世間に衝撃を与えた作品です。今なおその輝きは色あせず、ロックの必聴アルバムとして語られています。
キング・クリムゾンについて
『In The Court Of The Crimson King』についてご紹介する前に、まずはこのアルバムを生み出したキング・クリムゾンがどのようなバンドなのかを紹介していきます。これまでの歩みやメンバーについて、一緒にみていきましょう。
キング・クリムゾンのプロフィール
キング・クリムゾンの歴史は1960年代後半のイギリスにまで遡ります。1967年にマイケル・ジャイルズとピーター・ジャイルズの兄弟、そしてロバート・フリップが結成したGiles Giles & Frippが母体です。
そこからイアン・マクドナルド、ピート・シンフィールド、ジュディ・ダイブルが参加した後、ジュディ・ダイブルとピーター・ジャイルズが脱退します。続いてボーカル兼ベースとしてグレッグ・レイクが参加したことで5人になり、1968年にギターのロバート・フリップをリーダーとし、キング・クリムゾンが結成されました。その後、1969年『In The Court Of The Crimson King(クリムゾン・キングの宮殿)』でデビューを飾りました。
キング・クリムゾンは1975年に一度解散していますが、大幅なメンバーチェンジを経験しながらも50年以上活動しており、2021年には来日ツアー『MUSIC IS OUR FRIEND JAPAN 2021』を行いました。現在もプログレッシブ・ロックを確立したバンドとして、世界各国で愛されています。
キング・クリムゾンの歩み
キング・クリムゾンは、現在に至るまで解散・再結成を繰り返しており、メンバー変遷も激しいグループです。ここでは、デビューから現在までの歩みを、大きく4つの時期に分けて説明します。
デビュー〜1970年代前半
1969年に『In The Court Of The Crimson King』でデビューして以降、プログレッシブ・ロックの先駆者としてクラシック、ジャズ、ロックを織り交ぜた革新的な音楽を展開します。この時期は、実験性に溢れた楽曲を多く生み出し、イギリスロック界に衝撃を与えました。
1980年代前半
キング・クリムゾンは1975年に一度解散しますが、再結成しボーカル、ギター、ベース、ドラムの編成となります。この時期は「ディシプリン期」と呼ばれ、アフリカの民族音楽のエッセンスやディスコサウンドを取り入れた印象的な音楽を展開しました。従来の音楽とは打って変わったスタイルから、キング・クリムゾンとは全く別物という意味で「ディシプリン・クリムゾン」と呼ばれました。
1990年代中盤〜2000年代中盤
この時期は「ヌーヴォ・メタル期」と呼ばれ、従来のヘビーな音楽だけでなく、緻密でテクニカルな楽曲まで展開します。ヌーヴォ・メタル期の特徴は、スティックというベース楽器を全面に押し出すスタイルです。ギター、スティック、ドラムをそれぞれ2名ずつ配置する「ダブル・トリオ編成」をとり、「メタル・クリムゾン」とも呼ばれました。
2010年代中盤〜現在
2010年代から現在に至るまでのキング・クリムゾンは、「ダブル・トリオ編成」「トリプル・ドラム編成」をとり、強固で独特なミュージックが特徴です。ギター、スティック、ドラムが織りなすカルテットが、ポリリズム・プログレとして特徴的な音楽を響かせます。
また、ライブ活動にも力を入れており、最近では北米ツアーや来日ツアーも敢行しました。
レコーディング参加メンバー
ここでは、『In The Court Of The Crimson King』のレコーディングに参加した初期メンバーについて、経歴や特色などをご紹介します。
ロバート・フリップ
ロバート・フリップは、1946年5月16日イギリス生まれです。キング・クリムゾンのリーダーであり、ギターを担当しています。彼の演奏スタイルは独特で、英国紳士のような上品な佇まいで緻密なギター演奏を繰り広げ、ステージアクションもほとんどしません。
また、ニュー・スタンダード・チューニングという変則的なチューニングや、機材を駆使して独特な音色を奏でるなど、変則的な音楽を積極的に実現しています。
グレッグ・レイク
グレッグ・レイクは、1947年11月10日イギリス生まれです。キング・クリムゾンでは主にボーカル・ベースを担当し、世間に鮮烈な印象を与えました。
キング・クリムゾンだけでなく、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの創設メンバーとしても活躍し、ブリティッシュロック界をけん引してきた人物です。ソロアーティストとしてもその才能を発揮していましたが、2016年12月に69歳でこの世を去りました。
イアン・マクドナルド
イアン・マクドナルドは、1946年6月25日イギリス生まれです。キング・クリムゾンではこのアルバムのみの参加ですが、アルバム全ての曲の作曲・プロデュースを手掛けました。また、磁気テープを再生して演奏する「メロトロン」というキーボードを担当し、キング・クリムゾンおよびプログレッシブ・ロックの代表的なサウンドを形作りました。
マルチプレイヤー・ソングライターとしても功績を残しましたが、2022年2月に75歳でこの世を去りました。
マイケル・ジャイルズ
マイケル・ジャイルズは、1942年3月1日イギリス生まれです。キング・クリムゾンではドラムを担当しました。ツーバスを駆使する一方で、ジャズのエッセンスをも感じさせるドラミングが特徴で、初代ドラマーとして圧倒的な存在感を見せつけました。
1971年にキング・クリムゾンを脱退した後、イアン・マクドナルドとともにマクドナルド&ジャイルズの名で活動します。その後は、高い演奏力を生かし、セッション・ドラマーとして活躍しています。
ピート・シンフィールド
ピート・シンフィールドは、1943年12月27日イギリス生まれです。詩人・作詞家として活動し、キング・クリムゾンでは作詞を専門に担当しました。アルバムに収録されている全ての曲の作詞を担当し、美しく荘厳な歌詞でキング・クリムゾンの楽曲にさらなる深みを与えました。ロック界で異彩を放つカリスマとして名高い人物です。
収録曲を紹介
ここでは、『In The Court Of The Crimson King』に収録されている5曲について、特徴や魅力をご紹介します。
1.21世紀のスキッツォイドマン
アルバムの1曲目である『21世紀のスキッツォイドマン』は、プログレッシブ・ロックの原点として有名な作品です。アルバムの最初を飾る印象的で激しいサウンドが魅力であり、キング・クリムゾンらしさあふれる楽曲に仕上がっています。
特徴は不安、恐怖、狂気といった、人間のダークで激しい一面を表現しているところです。ロック、ジャズ、メタルの要素を持ったヘビーなサウンドで、それぞれのジャンルに強い影響を与えました。
2.風に語りて
『風に語りて』は、イアン・マクドナルドとピート・シンフィールドが作曲を担当しています。『21世紀のスキッツォイドマン』とは対照的な、静謐で風を思わせる牧歌的な音色が特徴です。1曲目とのギャップが、聴く者を魅了します。
3.エピタフ
『エピタフ』は、ボーカル以外のメンバー4人が共同で作曲を担当した曲です。メロトロンという楽器を使用しているのが特徴です。また、後半にかけて盛り上がるドラマチックな構成となっており、その後のプログレッシブ・ロックではおなじみの表現方法となりました。
日本では西城秀樹がカバーしたことで有名です。
4.ムーン・チャイルド
『ムーン・チャイルド』は、メンバー全員が作曲を担当した曲です。静かで幻想的なメロディーが特徴的で、インドネシアのガムラン音楽やジャズを思わせる独特な音色が魅力です。
特にギターの技量の高さを存分に味わえます。
5.クリムゾンキングの宮殿
アルバムの最後を飾る『クリムゾンキングの宮殿』は、イアン・マクドナルドとピート・シンフィールドが作曲を手掛けました。アルバムタイトルともなっており、メロトロンの音色と重層的なコーラスが中世ヨーロッパを思わせる荘厳なメロディを実現しています。
クラシックのエッセンスが感じられ、プログレッシブ・ロック感あふれる魅力の詰まった1曲です。
『In The Court Of The Crimson King』の見どころと聴きどころ
ここでは、『In The Court Of The Crimson King』が名盤と言われるゆえんについて、見どころや聴きどころをご紹介します。
プログレッシブ・ロックというジャンルを確立
『In The Court Of The Crimson King』といえば、プログレッシブ・ロックというジャンルを確立し、ロック界に新たな旋風を巻き起こした作品です。前代未聞の実験的サウンドを楽しめる点が、このアルバムの大きな魅力です。
このアルバムは、「バルトークとコルトレーンと『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』の向こう側に何か新しい世界がある」を合言葉に制作されました。
『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』は、ジョン・レノンが自分自身のことを歌ったビートルズの名曲です。そして、バルトークはクラシック音楽の作曲家、コルトレーンはモダンジャズを代表するサックス奏者です。つまり、この合言葉は「ロック、クラシック、ジャズを超えた先にある新しい音楽を目指す」という意味であると解釈できます。
『In The Court Of The Crimson King』は、彼らが確立したプログレッシブ・ロックの先駆けとなる楽曲を味わえる名盤です。
聴きごたえのある大作・長尺主義
『In The Court Of The Crimson King』はたった5曲で43分45秒という収録時間を誇ります。つまり各曲が長いということであり、プログレッシブ・ロックの傾向である「大作・長尺主義」に当てはまります。
一方、各曲が長いにもかかわらず、聴く者を飽きさせないのがこの作品の魅力です。曲中に起伏があり緩急がついているため、聴きごたえのある音楽に仕上がっています。
ジャケットにも注目
『In The Court Of The Crimson King』は、音楽自体が魅力的で知名度が高いことはもちろん、アルバムのジャケットも有名です。赤く迫力のある顔が一面に描かれたジャケットは、強烈なインパクトを与えます。
このジャケットイラストを手掛けたのは、バリー・ゴッドバーという人物です。彼は当時、メンバーであるピート・シンフィールドの同僚でした。このイラストはアルバムの楽曲を聴いている自身の姿を表現したと言われています。
しかし、バリー・ゴッドバーはアルバム発売の翌年、1970年に若くしてこの世を去ります。それゆえ、このジャケットは彼が残した最初で最後の作品となるのです。唯一の作品ながら、強烈なインパクトを世の中に与えたジャケットイラストです。
今なお色褪せない魅力で新ミックスや映画化も
『In The Court Of The Crimson King』は、発売から50年以上たった今でも色あせない名盤としてその名を響かせています。新ミックスとして、2009年には40周年を記念した『40th Anniversary Series』、2019年には50周年を記念した『50th Anniversary Series』がリリースされています。
また、キング・クリムゾンのドキュメンタリー映画が、アルバムと同じ『In the Court of the Crimson King』というタイトルで製作されました。2022年3月開催のSW映画祭で初上映されるなど、彼らの作品は時代を超えて愛されているのです。
ロック愛好者必聴の名盤『In The Court Of The Crimson King』
イギリスが生んだ伝説のバンド、キング・クリムゾンのデビューアルバム『In the Court of the Crimson King』は、プログレッシブ・ロックを確立した名盤です。ロック界に新たな旋風を巻き起こした彼らの先進的で実験的なメロディーは、時を超えて愛され続けています。
ロック愛好者にとって必聴であることはもちろん、ロックの世界に初めて足を踏み入れる方にもおすすめです。プログレッシブ・ロックをけん引する彼らの音色を、この機会にあらためて聴いてみてはいかがでしょうか。