資源高で石油関連銘柄が人気化! 市況高騰によるメリットを受ける銘柄は?
Aventure編集部
ウクライナ情勢が緊迫化するに従い、資源高が鮮明になってきました。2022年5月中旬のレギュラーガソリンの小売価格は、1リットル当たり170.4円と小幅に値下がりしていますが、これは政府が補助金を出しているため。1リットル当たり32.3円抑える効果があると言われており、実際は1リットル当たり200円を超えるまでに原油価格は高騰しています。
急速に値上がりする理由の1つが、ウクライナとロシアの軍事衝突。資源大国ロシアに対して各国が経済制裁を下し、供給不安が高まったことで価格急騰につながりました。
資源高は原価を押し上げる要因にもなり、企業の業績に影響を与えています。その一方で、資源高でメリットが得られる銘柄もあります。この記事では、資源高によってメリットを得られる銘柄、デメリットになる銘柄を紹介します。
資源高を引き起こしている3つの理由
EUはロシアに天然ガスを40%、石油を25%、石炭を45%依存していると言われています。ロシアへの経済制裁で化石燃料の輸入をストップすることにより、ヨーロッパ各国は別の供給源を見つけなければならなくなりました。
当然、資源国は高値で売ろうとします。それが急速な資源高を引き起こした要因の一つですが、ウクライナとロシアの衝突前から資源高の予兆はありました。
現在の資源高の要因は3つあります。
1.世界的に脱炭素化の流れが進行して化石燃料への投資が抑制されていたこと
2.新型コロナウイルス感染拡大によって主要国の経済が急速に回復したこと
3.ウクライナ危機によってロシアに経済制裁が下されたこと
1.世界的に脱炭素化の流れが進行して化石燃料への投資が抑制されていた
日本では2020年10月に菅義偉元内閣総理大臣が、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すと宣言しました。
地球温暖化による気候変動が世界的に問題視され、先進国を中心に脱炭素化へと歩み始めました。ESG、SDGsと呼ばれる取り組みの中核にあるのが脱炭素化です。
世界的な枠組みとして知られているのが「パリ協定」。2015年に開催されたCOP21で合意し、2016年に採択されました。世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするというものです。
この協定が革新的だったのは、アメリカ、中国、EU、インド、日本といった主要国が加盟した点です。
これまでの常識では、経済発展のために化石燃料は欠かせず、脱炭素化に向けた国際的な枠組みに参加するのは忌避されてきました。特にCO2の排出量が多いアメリカや中国は消極的な姿勢を示していました。気候変動が激しい今、その考え方が大きく変化したのです。
※自然エネルギー財団「世界の電力」より
水力、バイオ、風力や太陽光などの自然エネルギーの発電量は、1985年の2,058TWhから2020年の7,444TWhまで3倍以上増加しています。
一方、石油は1,109TWhから758TWhまで31.7%減少しました。 自然エネルギーによる発電は2000年に入ってからの上昇率が目覚ましく、世界的な取り組みが奏功していると言えます。
エネルギー関連への投資は、従来のような油井の発掘やシェールガス開発よりも、自然エネルギーの方面へとシフトしていたのです。
2.新型コロナウイルス感染拡大によって主要国の経済が急速に回復した
パンデミックによる景気後退の反動が起こり、エネルギー生産が急速な需要増に追いつかなくなりました。自然エネルギーによる発電量は多くなりましたが、電気自動車の普及率はまだ高くはありません。日本の普及率はわずか0.6%と言われています。
自動車に限らず、飛行機、船舶などの輸送機は化石燃料に依存しています。新型コロナウイルス感染拡大で航空機の稼働は先進国を中心にゼロに近い水準まで落ち込みました。工場での生産や港湾作業が止まったことで、船舶の稼働も抑制されました。
航空機、船舶の需要は急速に戻りつつあります。2021年の原油価格(ブレント、WTI、ドバイの平均値)は70%増の1バレル70ドルまで上昇。そこにウクライナ危機が重なり、1バレル100ドル台で推移するようになりました。
3.ウクライナ危機によってロシアに経済制裁が下された
EUは2022年5月4日、ウクライナへの進行を続けるロシアからの原油輸入を6か月以内に停止すると発表。アメリカとイギリスは輸入の禁止を早期に決定していましたが、依存度の高いEUが禁輸を決めたことは異例でした。
著名なエネルギー研究者であるダニエル・ヤーギン氏は「ロシア産原油・天然ガスの輸入禁止や買い控えで、西側各国は新たな調達先を求めて奔走している。1970年代の石油ショックに匹敵するエネルギー危機である」と述べています。
今後の見通しは?
止まらない高騰を心配する声もありましたが、中国景気が失速したことや、一時的なパニック買いが一巡したことにより、1バレル100ドル付近で高止まりするのではないか。との見方も出てきました。
資源価格の過度な高騰は企業活動や消費行動に多大なる影響を与えますが、大混乱をもたらすほどのものではないと市場関係者は見ています。
ロシア軍のウクライナ侵攻が本格化し、アメリカとヨーロッパは2022年3月2日に国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除しました。国際的な金融インフラであるSWIFTから排除されると、銀行や証券会社などとの決済ができなくなるうえ、国際間の商取引における送金や決済ができなくなります。極めて強力な経済制裁です。
各国の動きを受け、3月7日に原油価格は1ドル130ドル台をつけました。通常、投資家は最悪の状況を見越して買いを入れます。先行きが不透明な中で将来的な高騰を見込んでつけた価格が130ドルであることを考えると、この付近の価格から更に上値を更新する可能性は低いと考えられます。
史上最高値は1バレル147ドル。少なくともこの水準以下であるとは考えられますが、状況次第によっては更新することも視野に入ります。ただし、中国景気の動向からその可能性は低いとみられています。
資源高騰でメリットを得られる銘柄の紹介
資源高でメリットを得られる銘柄にどのようなものがあるでしょうか?代表的な銘柄を紹介します。
ENEOSホールディングス
石油精製・販売大手の新日本石油(現:ENEOS)と新日鉱ホールディングス株式会社(現:JX金属)が、経営統合して生まれた会社。国内では日立製作所と肩を並べる巨大企業です。
2022年3月期の純利益が前期比4.7倍となる5,371億円となりました。2010年以降で最高益です。
INPEX
石油・天然ガスの権益を持つ石油開発企業。アラブ首長国連邦のアブダビ沖海上油田下部ザクム油田の権益などを持っています。
石油資源開発
INPEXと同じく石油、天然ガスの権益を持ち、開発から生産、輸送、販売までを一貫して行っています。メタンハイドレートやオイルサンドの研究開発も手掛け、パイプライン輸送では日本屈指の技術力を持っています。
富士石油
原油の精製や石油製品の販売を行う会社。工業地帯に製油所を持ち、出光興産やENEOS、住友化学、日本製鉄などの主要な工場へと供給しています。日本を支える産業が活動するのに欠かせないエネルギーを供給しています。
出光興産
石油精製、石油化学に限らず、電子材料の製造・販売、EV用次世代電池の全個体電池の主要材料となる固体電解質の研究開発にも力を入れている会社です。数多くの特許を取得しており、原油のみならず最先端技術とそれに伴う権利収入も得ています。
ENEOSホールディングスの決算内容を確認しよう
資源価格が上がることで、石油精製・販売大手であるENEOSホールディングスの業績が好調になるのはなぜでしょうか?直近の決算からその理由を解説します。
ENEOSホールディングスの2022年3月期の売上高は前期比42.6%増の10兆9,217億円。営業利益は同209.2%増の7,859億円、純利益は同371.2%増となる5,371億円となりました。
ENEOSホールディングスの利益を大幅に押し上げた要因は2つあります。1つは資源価格が上昇したことによって、資源開発事業で利益が出たこと。もう1つは備蓄している原油の在庫評価額が上昇したことです。
※ENEOSホールディングス「2021年度通期決算説明資料」より
ENEOSホールディングスは消費者向けにガソリンなどを販売していますが、そこから得られる利益は限定的です。燃料のもととなる石油・天然ガス開発を行っており、資源価格上昇によって油田などから採取できる化石燃料を高値で販売することができるのです。
ENEOSホールディングスは、資源高により営業利益の押し上げ効果が524億円あったと公表しています。
※ENEOSホールディングス「2021年度通期決算説明資料」より
好業績に凄まじいインパクトを与えたのが、在庫の影響です。ENEOSホールディングスは化石燃料を備蓄しており、業績にはその評価額が反映されます。2021年3月期は387億円でしたが、2022年3月期は3,703億円でした。およそ9倍に膨らんでいます。
純利益が前期比4.7倍になった背景には、備蓄分の化石燃料が価格の高騰によって膨れ上がったことがあります。
資源高騰がデメリットとなる銘柄の紹介
原油価格が上がることで、業績悪化要因となるのは原油が原価に含まれている会社です。原油価格を売価に転嫁できる会社(素材・化学メーカーなど)は良いですが、しづらい業種もあります。
典型的な産業が、航空機輸送業界、海運業界、電力業界です。主な銘柄は以下の通りです。
・ANA
・JAL
・日本郵船
・商船三井
・川崎汽船
・東京電力ホールディングス
・中部電力
・関西電力
資源関連銘柄の高配当株に注目
資源関連の銘柄は高配当である点も注目です。原油価格が上がることにより、好業績・高配当となってキャピタルゲイン・インカムゲイン両方を狙いやすくなります。
ただし、国際的にも脱炭素化が進んでいる点には注意が必要です。資源高の様子を見極め、優良銘柄を探してください。