FRBとFOMCとは? アメリカの利上げが株価や為替にどのような影響を与えるのか
Aventure編集部
2022年5月3日・4日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)は0.5%の政策金利引き上げと保有資産の圧縮という2つの金融引き締めを決定しました。金融市場は0.75%の利上げの可能性も視野に入れていたため、パウエル議長が当初の予想通り0.50%の利上げに留めたことを好感しました。
5月4日のダウ平均株価の終値は前日比932ドル27セント高い34,061ドル06セントで取引を終えました。2020年5月18日以来の大幅な上昇となっています。為替相場では大幅なドル安が進行。ドル円は一時128円台まで下落。心配されていた過度な円安にストップがかかりました。
金融市場に巨大なインパクトを与えているFRB・FOMCとは何なのでしょうか? また、金利を上げる、下げることによって株式や為替にどのような影響があるのでしょうか? この記事ではFRBが実施する政策金利が景気に与える影響について解説します。
FRB・FOMCとは?
世界経済に圧倒的なインパクトを与える「FRB」と「FOMC」。経済のみならず、政治の世界にも計り知れない影響力を持っていると言われています。この2つはどのような役割を担い、何をしているのでしょうか?
FRB
FRBはThe Federal Reserve Boardの略語で、アメリカの中央銀行制度の最高意思決定機関のことです。日本語では連邦準備理事会と呼ばれます。日本では日本銀行に相当します。
FRBは金融政策を実施し、物価の安定、雇用の最大化、長期金利の水準の維持などを実現。その結果として経済が安定・活性化することを目指しています。
FRBの政策が多大なる力を持つのは、アメリカが国内総生産トップを独走する経済大国であり、国際間の決済に広く使われている基軸通貨が米ドルだからです。
FRBは主に政策金利(中央銀行が一般の銀行に貸し付ける金利)を決定します。一般的に、金利を引き締めるとインフレが抑制されてブレーキがかかります。逆に金利を引き下げると経済が加速してインフレが進行します。
また、金利を上げると米ドル高となり、金利を下げると米ドル安になる傾向があります。多くの国が経済大国アメリカと米ドルへの依存度が高いため、FRBの政策に影響を受けるのです。
FRBは議長1人、副議長1人を含む7名で構成されています。日本銀行と異なるところは、FRBは銀行ではなく理事会であるため、FRBの意思決定に基づいて各地の連邦準備銀行が中央銀行業務を行っています。
2022年5月の上院本会議で再任が承認されたのが、2018年2月に就任したジェローム・パウエル氏です。パウエル氏は法律を学んだ弁護士で、エコノミスト出身ではありません。そのため、予想しづらい人だと言われています。
FOMC
FOMCはFederal Open Market Committeeの略語です。日本語で連邦公開市場委員会と訳されます。アメリカの金融政策を決定する会合のことです。日本での日銀金融政策決定会合に相当します。
日々変化する経済状況を見極めた上で、FOMCで方針決定を行います。年8回開催されます。株式や債権などのトレーダー、エコノミスト、シンクタンク、経済ジャーナリストなどがFOMCの内容を事前に予想しており、FOMC前に株価や債権価格、為替などに反映されることがほとんどです。
FOMCが行われると、現在の経済状況の判断と政策金利の上げ下げなどに関する方針を発表します。その結果が市場予想と大きく外れると株価、債券価格、為替などが乱高下することがあります。
【2022年のFOMC】
第1回:1月25日・26日
第2回:3月15日・16日
第3回:5月3日・4日
第4回:6月14日・15日
第5回:7月26日・27日
第6回:9月20日・21日
第7回:11月1日・2日
第8回:12月13日・14日
株式などの金融資産に投資をする人は、FOMCのタイミングを覚えておくと良いでしょう。開催される前後に大きく変動する可能性があるためです。特に米国株や日本の大型株への影響力は凄まじく、注視する必要があります。
例えば、2022年5月3日・4日のFOMCにおいては、0.50%の利上げを決定しました。市場では0.75%の利上げも見込まれていましたが、実際には0.75%までの利上げは積極的に議論されていないことが分かりました。
5月4日のダウ平均株価の終値は前日比932ドル27セント高い34,061ドル06セントで取引を終えました。これは「0.75%までの利上げはなかった」という安心感(市場予想をやや下回る利上げ幅だった)から、株価が上がったと見て取れます。
好景気・不景気とは?
「金融引き締め(利上げ)」や「金融緩和(利下げ)」という言葉はよく耳にしますが、それによって自分の身に何が起こるのかまでを考えられる人は、よほど経済に明るい人でしょう。
ここからは、好景気・不景気が起こる背景と、金利政策がそこに与える影響を、マクロからミクロの視点へと落とし込みながら説明します。まずは、好景気・不景気がどのように起こるのかを説明します。
好景気
好景気を簡単に表現すると、モノがよく売れて企業が儲かり、社員の給料が上がっている状態です。好景気が起こる要因は複合的ですが、日本を例にとると比較的理解しやすいかもしれません。
戦後、日本は一時的にGDPが世界2位となる経済大国に成長しました。その主要因として大きく3つが挙げられます。
①日本が焦土化したこと
②人口が増加傾向にあったこと
③円安が進行したこと
焦土化した日本は道路や鉄道、オフィスビル、工場、住宅などを徹底的に整備する必要がありました。すなわち、需要が旺盛だったのです。
そして、海外からの引揚げと第1次ベビーブームによる出生率の上昇で、1945年から1949年までの間に人口は年平均3.2%で急激に増加。1950年には8,400万人に達していました。国内だけで労働力を十分に賄うことができたのです。
また、円安が進行していたことも追い風に。インフラが整って日本国内での生産力が上がると、輸出をして外貨を稼ごうとします。日本は産業機械やオートバイ、自動車などの工業製品に強みを持つようになり、それを輸出するようになります。海外の人にとって、円安であるということは海外製品(日本製品)が安く買えることを意味します。
日本製品は質が高く、安く購入できたために輸出品がよく売れました。
外貨が稼げるようになると、国内だけで限定的に回るキャッシュ以上の資金が流入することを意味します。儲けた企業は労働力を増やし、労働者が流出しないように給料を高くしようとします。
これが高度経済成長期の日本です。この好景気は1980年代後半から1990年ごろにピークを迎えます。
不景気
バブル崩壊後の日本がまさに不景気です。特に2021年ごろまでの日本は、デフレと呼ばれる物価安に取りつかれていました。
デフレとは貨幣の価値が上がることで、相対的に物価が下落する現象です。100円ショップ、100円寿司、ワンコイン(500円)ランチなど、日本を象徴する文化があります。これらは典型的なデフレサービス、商品です。
日本は賃金水準が上がらず、安いものを買い求めることが当たり前という意識が根づきました。
また、2008年に世界金融危機が起こると、多くの企業は与信に影響が出て借入がしづらくなり、企業活動に支障が出るようになりました。
※中小企業庁「令和元年度の中小企業の動向」より
大企業、中小企業ともに売上高の水準は低迷しています。モノが売れず、モノの値段を上げることもできず、借入もしづらいために設備投資が制限されます。企業は儲けることができないため、従業員の給料を上げることができません。
給料が上がらなければモノを買ったり、高いモノを手に入れるモチベーションは生まれません。これがデフレスパイラルと呼ばれる現象です。
政策金利を上げると何が起こる?
政策金利を上げるのは、基本的に好景気のときです。好景気の間はインフレが進行します。インフレとは貨幣の価値が下がり、物価が上昇することです。モノが売れて企業活動が活発になるために、従業員への給料の支払いが多くなります。人々が豊かになり、経済が好転します。
しかし、あまりに急速にインフレが進行すると、人々の購買意欲が減退して企業活動が停滞してしまいます。場合によっては通貨安が進行して輸入価格が上がり、物価高が進行してしまうこともあります。物価高に給料水準がついていかなければ、人々の生活は困窮するでしょう。
そうなる前にブレーキをかけるのが、FRBや中央銀行の役割です。インフレが進行すると、FRBは利上げを実施するのです。
中央銀行が行う利上げとは、銀行に貸し付ける金利を上げることを指します。銀行の金利が上がると、企業は資金を調達しづらくなります。設備投資などに回る資金が抑制され、企業活動に制限が出るのです。
当然、住宅ローンや自動車ローンの金利も上がります。消費者は住宅や自動車を買おうという意欲を失います。モノが売れなくなるため、企業が儲からなくなるのです。
これがブレーキをかけるという意味です。
FRBは2022年に入ってから急速に利上げへと動いています。なぜなら、新型コロナウイルス感染拡大で一時的に落ち込んだ経済の立ち直りが予想よりも早く、ロシアとウクライナの衝突によって資源供給の大半がストップしたため、物価高が引き起こされました。需要に対して供給が追いつかないのです。
経済が急速にインフレへと動いたため、利上げによってペースを落としているのです。
政策金利を下げると何が起こる?
金融緩和は不景気のときに行われます。2022年の日本は金融緩和を継続しています。
経済が停滞すると、企業や消費者にお金を行き渡らせなければなりません。低金利であれば、企業は資金調達がしやすく、設備投資に資金を回すことができます。
住宅ローンや自動車ローンの金利が下がります。住宅ローン金利は0.4~0.5%程度にまで抑え込まれ、歴史的な低水準です。バブル期の住宅ローン金利は8.0%前後が一般的でした。都心の億を超えるタワーマンションがよく売れていると耳にしますが、背景の一つとして住宅ローン金利が下がっていることがあります。
アメリカが利上げをし、日本が利下げをしているために金利差を生んで為替に影響が出ています。円安・ドル高の進行です。
トレーダーや投資家は金利の高い米ドルで資産運用をしようとします。そうすると、金利の低い円を売ってドルを買う動きが強くなります。ドルの需要が上がるためにドル高が進行するのです。
2021年ごろまではアメリカも金融緩和をしていました。円とドルがしばらくの間安定していたのは、両国ともに金融緩和をしていたためです。そのバランスが急速に崩れて、円安が進行しました。
金利は株価にどのような影響を与えるのか
金利を上げる場合の株価への影響
基本的に金利が上がると株価は下がります。特に大型株への影響が甚大です。アメリカであれば、アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタのような時価総額の大きな企業です。
日本であれば、トヨタ自動車、ソニーグループ、キーエンス、NTT、リクルートホールディングスなどが挙げられます。
業績の良し悪しに関係なく下がる傾向があり、これがよく知られている「連れ安」。実はこの「連れ安」は、ある程度数式化できます。
まず、理論株価を簡略的に算出する式を覚えてください。
株価 = 配当 / (金利 + 株式リスク・プレミアム ー 成長率)
聞きなれない言葉が並んでいますが、分母に「金利」が入っていることがポイントです。金利が上昇すると分母が膨らむため、株価は小さくなります。上の式からそれを感覚的にとらえることができます。
金利が上がって株価が下がることは、数式で説明することも可能なのです。
金利を下げる場合の株価への影響
金利を下げた場合は、上げた場合と真逆のことが起こります。株価は上昇します。事実、日経平均は2021年2月に30年半ぶりとなる3万円台を回復しました。
ただし、日本株の上昇で注意したいことがあります。このころの金融緩和は、金利を下げるのと同時に、日本銀行がETFと呼ばれる上場投資信託を大量に買い付けていました。ETFとは指数に連動するように設計された投資信託の一種で、日本銀行は間接的に大量の国内の大型株を買い付けていたことになります。
日経平均が3万円台を回復したのは、利上げ効果だけとは言えません。
情報を収集してトレードに役立てる
FRBがFOMCで意思決定する金融政策が、経済にどのような影響を与えるかがわかりました。投資に役立てるポイントは、FOMCのスケジュールを把握すること、市場予想を大まかに知っておくこと、予想と決定内容を照らし合わせること、それによって市場がどのように動いたのかを見ることです。
それを繰り返すことにより、トレードの腕を上げることができます。腕の立つトレーダーでFOMCの内容を気にしない人はいません。真夜中であっても、リアルタイムで米国の速報を拾う人もいます。
市場関係者が注視する情報を資産形成に活かしてください。