馬主になるにはどんな条件をクリアする必要があるのか? 維持にかかる費用も解説
Aventure編集部
サイバーエージェントの藤田晋社長が馬主になったことが話題となりました。同社のゲーム「ウマ娘」が大ヒットを記録。ゲームの内容をなぞるように、愛馬が出走する姿を週末に楽しんでいると言います。2022年5月の段階で27頭もの馬を所有しているというから驚きです。
資産家がなるイメージの強い馬主。潤沢な資金力が必要なようにも見えますが、実は地方競馬であれば所得金額が500万円以上あり、一定の条件をクリアすれば誰でもなれます。
ただし、最低限のハードルを乗り越えても高額な維持費がかかるのも事実。この記事は、馬主になるための条件や維持費、1頭が稼ぐ額など、投資の側面から馬主になる方法を解説します。
個人馬主になるための絶対条件
馬主は中央競馬、地方競馬でそれぞれの要件が異なります。ここでは、個人が馬主になるための条件を解説します。
中央競馬
中央競馬会は競馬法によって農林水産大臣の監督を受け、日本政府が資金を出資する特殊法人です。ここから得た利益は国庫に納入され、畜産の振興や社会福祉に役立てられています。国が取り仕切っているため、馬主になるための条件も厳しく設定されています。
所得金額が1,700万円以上あること
継続的に得られる見込みのある所得金額(収入金額ではありません)が、過去2年いずれも1,700万円以上あることが必要です。
所得金額には地方競馬の賞金などは含まれません。一時的なものではなく、継続的な所得金額であることが条件です。
保有資産が7,500万円以上あること
不動産、預貯金、有価証券など継続的に保有する資産の額が7,500万円以上でなければなりません。
保険証券やゴルフ会員権、美術品などは資産に含まれません。負債がある場合は資産額から負債を差し引いて評価します。
地方競馬
都道府県や地方公共団体が主催する競馬です。地方競馬全国協会が統括しています。
所得金額が500万円以上あること
直近年における所得金額(収入金額ではありません)が、500万円以上であることが求められます。
馬主になるための一連の流れ
中央競馬、地方競馬全国協会が定める申請に必要な書類に記入して提出すると、3~5か月ほどで審査結果が出ます。申請には書類のほかに印鑑証明書、身分証明書、戸籍謄本などが必要になります。
馬主になるための道筋
馬主になるには王道パターンがあります。典型的なものを3つ紹介します。
世襲パターン
歌舞伎や役者、政治の世界は世襲世界ですが、馬主や騎手も世襲が非常に多いです。
これは競馬ファンが一部に限られていることや、競馬業界の情報が一般の人々に行き渡っていないことが関係していると言われています。特に馬主は豊富な資金力が必要であり、簡単になれるものではありません。
やや閉鎖的な世界だと考えておいた方が良いでしょう。
馬主から誘われるパターン
馬主が馬主の候補となる人を連れてくるパターンもあります。インターネットで馬券が買える
JRAの会員はおよそ500万人。競馬人口は決して多いとは言えません。
競馬に興味を持たない富裕層も多くいますが、一度その魅力を知るとファンになる人も少なくありません。
資金力で馬主になるパターン
競馬ファンで若いころから馬主に憧れており、起業で資金力を手にして馬主になるという人は多いです。そのような人は馬への愛情があり、競馬への興味関心も高いため、熱心に馬を育てると言われています。
馬主の種類
ほとんどの馬主が個人馬主ですが、実は3つの種類があります。
・個人馬主
・組合馬主
・法人馬主
それぞれに特徴があります。
個人馬主
JRAの馬主全体の85%を占める最もポピュラーな形態です。
組合馬主
3名以上、10名以下の組合員がそれぞれ出資をし、共同で馬主活動を行います。個人馬主の所得要件に合致しないものの、オーナーになりたいという人が集まってできるものです。仲間とともに馬主になりたいと考えている人に向いています。
法人馬主
法人を馬主登録する形態です。代表者が個人馬主としての登録要件を満たしたうえで、法人の財務内容の審査の対象になるなど、厳しい条件が設定されています。また、法人馬主の代表者は、個人馬主として経験を積んだ人しかなることができません。
費用はどれだけかかるのか
気になるのは馬主になった後の費用。どれくらいかかるのでしょうか?
馬主にかかる金額は大きく2つあります。
・馬代
・維持費
馬代
競走馬の価格は正にピンキリの世界です。国産馬は200万円以下でも購入することができます。競技用にある程度調教された馬は300万円から500万円程度で買えます。
藤田晋氏は、2021年に千葉サラブレッドセール史上最高価格となる5億1,711万円でディープインパクト産駒の牡、現3歳馬のドーブネを落札したことが話題となりました。
競走馬は、数百万円から億単位で取引されています。一般的な相場はおおむね2,000万円から3,000万円と言われています。
維持費
競走馬は調教師に預けるのが基本。預託料は調教師によってバラバラですが、月額60万円ほどが一般的なようです。年間720万円かかる計算です。
以下のような項目にかかる料金です。
●調教料
●運動料
●装蹄料
●レッスン料
●入厩料
これは1頭にかかる金額。多くの馬主は複数の競走馬を所有しており、馬の数に応じて金額が変わります。
1頭あたりの平均収入は?
高額な費用がかかる馬主ですが、出て行くお金ばかりではありません。
由緒ある重賞レースであれば3億円、2億円の賞金が設定されています。分配率が決まっており、賞金額の10割、4割、2.5割などと着順で決まっています。ただし、このようなレースに出られるのはごく限られたエリートだけです。
レースに出た馬は出走奨励金や特別出走手当などが支払われます。
JRAは1頭あたりの平均収入が723万円としています。
投資価値という側面で見た場合、競走馬の購入価格と維持費を加味すると投資対効果は高くありません。むしろ、マイナスになることもあるでしょう。条件が良い投資先でないことだけは確かです。
どちらかというと、趣味という側面で馬と付き合うのが良いでしょう。
気軽に始められる一口馬主とは?
高いハードルをクリアすることなく、気軽に馬主になる方法があります。一口馬主です。一口馬主とは、馬の所有権を流動化したもので、株式投資に似ているかもしれません。匿名組合契約が利用され、金融商品取引法の規制を受けています。
一口馬主は愛馬会法人とクラブ法人の2つによって成り立っています。愛馬会法人とクラブ法人は金融庁と農林水産省の商品投資販売業者の許可を得ています。ただし、愛馬会法人は馬主資格を持っていません。
愛馬会法人の会員は、匿名組合契約によって出資をし、愛馬会は出資金で取得した競走馬をクラブ法人に現物出資します。クラブ法人は競走馬をレースに出走させ、獲得した商品を愛馬会法人に配当します。
愛馬会法人は、それを会員に分配する仕組みです。
出資は競走馬ごとに行われ、競走馬が賞金を獲得すると、出資者は賞金に応じた損益分配を受けることができます。
多くは40~500口程度に分割して出資を募っています。1,000万円の馬で100口であれば、1口10万円となります。出資者は馬代のほかに入会費や経費、保険料なども負担します。
元本保証はなく、競走馬が死亡したり競争能力を喪失した場合、出資した金額が戻るわけではありません。ただし、契約内容によってはレースに出られる2歳を迎える前に死亡するなどした場合に限り、出資金を全額返金するという規約を設けていることもあります。
クラブ法人を設立するには?
クラブ法人は競走馬のファンドを設立し、出資を募って運営します。馬主資格を持っているために一般の馬主より厳しい条件が課されていることが特徴です。
以下の項目を満たす必要があります。
●法人代表者がクラブ法人に資本金又は出資の総額の50%以上を出資すること
●法人代表者が競馬の執行上必要とされる充分な知識と経験を有すること
●法人代表者は個人馬主又は組合馬主の組合員と重複し、又は複数の法人馬主(クラブ法人を含む)の代表者を兼任しないこと
●法人の事業目的のうちに競馬(馬主)に関係する項目及び競走用馬に係る金融商品取引業(競走用馬投資関連業務)に関係する項目を設けること
●法人の資本金の額、又は出資の総額が1,000万円以上とし、法人の過去2ヵ年の決算が黒字であること(当該法人が設立後間もない等の事情により、決算の状況の把握が困難な場合を除く)
●法人から提出を受けた募集頭数、競走馬の取得方法、競走馬の預託先、事業執行体制など、JRAが必要と認める事項からなる事業計画を提出し、当該法人のクラブ法人としての活動が、競馬の公正かつ円滑な施行及び出資会員保護の上で重大な支障を来たさないと認められ、かつ収支見込により、当該法人のクラブ法人としての安定的な経営の継続が可能とJRAが判断した場合
●愛馬会法人になろうとする法人が、競馬の公正かつ円滑な施行及び出資会員の保護について支障をきたさないとJRAが判断した場合
個人馬主になるなら趣味だと割り切る必要も
熱狂的な競馬ファンであり、十分な資金を持っているのであれば、馬主になるのは最高の娯楽かもしれません。自分が手をかけた馬が出走し、歴史あるレースでトップを走る姿を見るのは何物にも代えがたいでしょう。その楽しさは藤田晋氏が様々なインタビューで語っています。
儲けという視点だけでなく、馬を育てることそのものへの愛情がなければ、その魅力を享受することはできません。趣味だと割り切ってその世界に入る覚悟が必要です。